04
「おや、。今日はオフ?可愛らしい格好だこと」
「災藤さーん!えへへー、本当ですか?褒められた~」
肋角さんのいる執務室にちょうど入ろうとしたところだったのか、扉のドアノブに手を掛けた災藤さんが、廊下を歩いてくる私に気付いてそう言った。災藤さんはちょっとした見た目の変化にすぐ気づいてくれる。そのうえ、良いことしか言わない。(間違っても、「また身長伸びたんじゃない?」とかはいわない!)私の、おろしたてのスカートを見下ろし、微笑んでくれる。嬉しくなってその場でくるーんと回ってみせた。
「買ったばっかりなんですけど早く着たくってー!…でもちゃんと試着して決めないとダメですねぇ…通販ってだめですねえ…着てみたら思った丈の長さと違ったっていうか…」
「ああ、なるほど。ちょっとした失敗も、ショッピングの醍醐味ではあるけれど」
災藤さんに「かわいらしい」と褒めてもらえたのは嬉しいけど、うん、やっぱり自分が頭の中でイメージしていたのと、実際に着てみた感じは違った。もうちょっと丈が長くて、こう、足がここまで隠れてー…っていうイメージだったんだけどなぁ。イメージ画像として頭に浮かんでいた自分と、現実の自分では…「縦の長さ」が違ったらしい。むずかしい。自分の着たい「かわいい」は、なかなかむずかしい。ちょっとしょんぼりしていたら、災藤さんが「そうそう、」と何かいいことを思いついたように人差し指を立てた。
「失敗しない買い物の方法を教えましょう」
「わー!はい!はい!知りたいです~!」
「私に任せなさい。
に似合うものを一から仕立ててしまえば問題ないのだから」
「…わ~お…おーだぁめいどぉ」
かっこよすぎるなあ、ショッピングのプロ。大人のテクニックだなあ。ほあ~っと感動している私に、災藤さんが笑う。それが、私に対してのやさしさなのだとわかる。だって、たしかに、私の「着たい」はなかなか、そこらへんに売ってない。特注品、みたいなものじゃないとだめなのかもしれない。私の、サイズ感では。でも、その手間さえクリアできればきっといいものに出会えるよ、っていう励ましだ。災藤さんが執務室の扉を改めてノックし、「さて、肋角も可愛い
を見たがっているだろうし」と悪戯っぽく言ってドアノブを捻った。ドアの向こうの私たちの会話がずっと聞こえていたのか、ちょっとやれやれって表情しつつ、肋角さんが私の服装に目を向ける。
「そうだな。今でも十分似合っているとは思うが、災藤に頼んでおくといい。お前の納得のいくものを作ってもらえ」
「わ~ん嬉しいな~!ありがとうございます!…あっ!そうだ、これ!さっきちょうど郵便届いたんです。『管理長様あて』だから重要かなーすぐ渡したほうがいいのかなーと思って持ってきました」
「ああ、悪いな。休み中に気を遣わせた。受け取ろう」
お仕事関係で最高に重要な書類はあんまり郵送じゃなく、災藤さんが直接持ってくることが多いから、ものすごーく取り扱い注意な郵便物ではないかもしれないけど、一応。気遣い、と言われればそうなのかもしれないけど100%全部そうでもなく、その内のちょっとは下心だ。私は執務机の肋角さんに郵便物を両手で手渡して、すぐには下がらずにちらっちらっとその顔を窺う。すぐに言いたいことを理解してくれる肋角さんが、軽く手招きするように、「もう少し近くに来い」と促した。でれでれに頬を緩ませながら私が頭を下げて距離を少し詰めると、肋角さんの大きな手が頭の上にのっかる。
「御苦労」
「…えへえへ」
「おやおや。飼い主の元へ新聞をくわえてくる愛らしい犬のよう。さすがの管理長も『娘』にはすっかり骨抜きのようで」
「お前の溺愛ぶりには負けると思うがな、災藤?」
「ええ、もちろん。勝たせるわけにはいきませんよ。ショッピングの約束は忘れないようにね、
。都合の良い日に声を掛けるから」
「えへー、嬉しいです!ワンちゃん扱いも、娘さん扱いも、なんだか自分がちっちゃいものになったみたいで嬉しい~!」
だらしなく緩む頬をおっこちないように両手でおさえてご機嫌にそう口にしたら、上司の二人は苦笑する。肩を竦めて、そんなことが嬉しいのか、みたいに。でも、私にとってはうれしいことだ。お二人といると、なんだかこう…自分の「縦の長さ」がちょっと忘れられるような気がする!(私の背がちょっとのびても肋角さんと災藤さんまだまだ届かないから安心感があるっていうことだと思う)(うん、たぶん、うん、届かないよね?届かないよね?この先も)
「……でもなんでこんなに伸びちゃったんだろうなあ…、あの、肋角さん…私昔もうちょっと…ちっちゃかったですよね?」
「…さて、どうだったか」
「ええー!?」
「背丈が少し変わったところで、俺にとってのお前は昔から何も変わっていないからな」
「肋角さん…! そ、そうですよね!?私の足がもし5メートルくらいになってもお二人は頭撫でてくれますよね!!よぉし!」
「……そうだな(5メートルの姿を想像している)」
「……そうだね(5メートルの姿を想像している)」
やっぱり大人の余裕がすごいな!話を聞いてもらってじぃんとしたし元気になっちゃったな!とにこにこのまま私はお二人に順番に「それでは失礼します!」と頭を下げて、執務室を後にする。ちょっと何かを考え込む顔のまま見送られた気がするけど、気のせいかな。ぱたんと扉を閉めて、その扉に背をもたれて、自分の格好を見下ろす。床を蹴るように軽く片足を上げて、スカートの裾が自分の足のどこに位置しているかを改めて確認した。
「……もうちょっと下まで丈があるものだよねぇ~このスカートねえ~…本来ならもっとこう…」
かっちりせずにゆったり着れるようにお腹の部分がゴムだったスカートを、ちょっと下にずりおろす。もうちょい、もっとこう、とずりずり引っ張って腰の随分低い位置で穿いてやっと「これくらいは欲しいかなー」という状態になるころに、はっとする。
「うおわっ下げすぎた!これじゃパンツ見えちゃ…、…」
「…」
「…、……た、谷裂…」
「……貴…様ッ」
「待って誤解です私は痴女ではありませんろしゅちゅきょうではありません!!」
気付けば廊下に谷裂の姿があった。執務室の扉の前でスカートをずり下ろしている女を見かけて谷裂が黙っているわけもなく、顔を赤くして火山のごとく噴火寸前の様子に、私は必死に「誤解です!まって!これにはわけがあるの!」と訴える。いや完全に露出狂になってしまうあろうことか執務室の前で。そりゃあ谷裂も怒るよ!ぴきぴき音が聞こえてきそうなくらいの怒りっぷりに、とにかくスカートを上げて何度も謝る。するとどうにか怒りを鎮めてくれたのか、深呼吸一つで気を取り直した谷裂が、静かな声で「そこを退け。執務室に用がある」と口にした。あ、よかった、許された…?ほっと胸をなでおろして、扉の前から一歩横にずれた。
「はあぁ…うん、すみませんでした…どうぞお入りください…」
「……おい」
谷裂の視線が、ちらとスカートへ向けられた気がした。それに少し、どきりとする。災藤さんは、見るなり「可愛らしい格好だね」って言ってくれた、おろしたてのお洋服。肋角さんからも好評だった。あんまり他人の服装に感想を口にするタイプには見えないけど、谷裂も何か褒めてくれるんじゃないかと、ちょっと期待した。
「くれぐれもみっともない格好で館の中を出歩くなよ」
「…ち、」
「特に肋角さんの前で恥ずかしい姿を晒すな」
「違うよお!?本当にさっきのは事故だよ!?誤解してる!?ねえ!?これパンツ見せながら穿くスカートじゃないからね!?本当だよ!?さっきのパンツはそういう」
「執務室の前で大声でその単語を叫ぶな馬鹿者!!」
「だって!!パンツ!!見せてな」
「(ガチャ)二人とも落ち着いて。何があったの。……本当に何があったの?」
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