※2021.4.1 つれづれエイプリルフールネタ
※いろいろと捏造設定注意
「Call Of Rain」捏造あらすじ
愛する妻を亡くした「白衣の男」が妻を生き返らせようとあれこれしているうちにゾンビを生み出してしまい特殊部隊パーシヴァルが送り込まれる。白衣の男VSパーシヴァルの図になる。
最後には正義が勝つ。
ざあざあ、雨の音がしていた。風も少しあるのだろう。窓が時折ガタガタと音を立てる。外の様子を切り取った四角形に見える空の色は、昼間だというのにどんよりと暗い。そんな天気に相応しい憂鬱そうな声が、昼食の並んだテーブルに吐き出されていた。
「……絶対桜散っちゃったよねえ」
「なー」
「『なー』じゃないよー!お花見しようしようって言って全然一緒に行ってくれなかったじゃん!」
「だってさー、しょうがなくね?もーちょいで成功しそうなんだって!」
「そう言ってもう何日経ったの~?私ずっと誘ってたのに!研究室籠りっぱなし体によくないよ!」
「ん!オッケーオッケー。明日はぜってー付き合う約束な!」
「でも今日の雨で絶対桜散ってるもん~」
「明日は晴れんじゃね?」
「だからぁ、明日晴れてても意味ないのー!」
どう考えても、ただでさえ見頃の時期からは少し経ってしまった桜を散らすのには十分な雨と風だった。明日にしよう、今度の日曜にしよう、なんて、「たまには出かけようよ!」の誘いをずるずると先延ばしにしていたところに、この雨だ。口を尖らせて拗ねた様子の相手に、白衣の男はほんの少し罰の悪さを感じながら、用意された食事を胃に流し込む。研究に没頭すると食事も睡眠も後回しにしがちな人間に、妻はこうして世話を焼く。普段「そこに置いといて!」だの、「片手で食えるモンがいい!」だの、面倒な注文をつけてばかりの男が今日はきちんとテーブルについているのは、彼女に対するささやかな罪滅ぼしというか、御機嫌取りというか。
「…ごめんなー」
「……」
「どこも出かけてねーよなー。スゲーつまんねー思いさせてるよなー、オレ」
世の中の普通の若い夫婦であればもっと、出かけて思い出も作るだろうし、一緒に過ごす時間は長いはずなのに。「変わり者」として研究に全てを捧げる人生を送っていた自分と一緒になったせいで、「普通」の夫婦としての生活は与えられそうにない。そのことに一応の申し訳なさはあるようで、珍しく反省したような様子に、妻は内心少し意外に思いながら、あえて唇を尖らせたまま、拗ねた演技を続けた。
「……悪いとおもってる?」
「思ってる!スゲー思ってる!ワリィ!」
両手を合わせて、頭を下げる。その頭のつむじに向かって、「怒ってないよ」と一言いえば、ぱっと男は顔を上げた。仕方ないなあ、という表情がそこにあって、それを見るなり男は嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「べつに、もっとどっか連れてってよー!つまんないー!とか、思わないよ。それはね、研究バカの誰かさんと一緒になったときから、諦めてます」
「うげっ!やっぱオレ、ヤな奴じゃん!ひでー旦那じゃん!」
「それでもいいよ、そんなところも好きだよ、って、結婚したんだよ」
だから、いいんだよ。真っ直ぐな声と視線でそう告げる彼女に、夫は少し驚いたように目を瞬かせた。「惚れた弱みだね、これ」なんて、すぐに悪戯っぽい笑顔に変わったけれど、そんな茶化し方にも、深い愛情が滲んでいた。
「っていうか、あー私がこの人をどーにか真人間にしないと!支えないと!と思って結婚したんだから!」
「マジで?」
「いーい?『出かけようよ』っていうのはアナタのために言ったの!今回のこと悪いと思ってるなら、たまには外に出る!日光を浴びる!もっとちゃんとご飯食べる!ちゃんと寝る!」
「おー、たべてるたべてる!大丈夫っしょ!今食ってんじゃん。お前作ってくれたじゃん、飯」
「あのねえ……ほんっと私がいないと駄目なんだから」
「いーじゃん。お前がいるんだから」
だってそのためにいてくれてるんだろ、さっきそう言ったろ。揚げ足をとるわけではないのだろうけれど、当たり前のように彼が言うものだから、妻の方はまた少し唇を尖らせた。
「もし私がいなくなったらどうするの」
「ほ?いなくなんの?なんで?」
「愛想つかしたり?」
「つかすの?お前?オレのこと好きじゃん」
「…す、っきですけどぉ~」
直球な物言いに、不意を突かれて少し恥ずかしくなる。言った張本人はケロッとしているけど。「じゃあいいじゃん、なんにも問題ねーじゃん」そう彼は言う。妻にしてみれば、問題ない……わけがない。大有りだ。
「好きだから、健康な生活を送ってくれって言ってるの!研究熱心なのはいいけど、無茶な生活続けてたら早死にしちゃうよ。私を未亡人にさせる気なんですかー」
「平気だーって!心配すんなよー!オレぴんぴんしてるし! あ!つーかさ、つーかさ、聞けって!この間言ってた実験あったじゃん!アレさ、結局あの後別の個体と比べたんだけどさ」
くるくると表情も話題もすぐに変えてしまう。研究漬けで心配だ、という話をしていたばかりなのに。呆れるふりして、それでもやはり目を輝かせて自分の実験結果を語る好奇心の塊みたいな子供っぽい彼を見ていると、口元は緩む。仕方ないなあ、と表情はまた穏やかなものになる。
「もー、私に言っても難しくてわかんないってば」
「お?…ん~……簡単に言うって難しくね?つーかさ、じゃあなんの実験の話ならもっとお前聞きてーの?」
「えー?……うーん…あ、ねえねえ、散った桜をもう一回元に戻す研究とかどう?やってみたら?」
「お~!…お~?なんかビミョーじゃね?なら枯れない桜を作る研究のほうがよくね? つーかまだ桜見れなかったの根に持ってんじゃん!」
「だってやっぱり一緒に見たかったもん~」
「んなモンさぁ、」
―――来年また見に行きゃいーじゃん。
ざあざあざあ。雨の音が、砂嵐のノイズに変わっていた。
外の天気は雨だった。それでも、聞こえるはずの雨の音は、男の耳には届かない。窓から差し込む光が煩わしくて板を打ち付けて塞いでから、かなり経った。暗闇の中で、何か生き物が蠢く。否、「生きた物」とは呼べない「それ」が。まるで糸で操られているようにぎこちない動きで、命を持たない肉の塊が研究室の床を移動する。光の灯らない瞳で暫くそれを視界に入れていた白衣の男は、深く息を吐きだして、天井を仰いだ。
「……また失敗か」
「失敗作」は、二足歩行を覚えた幼子のように一歩一歩男に近付き、言語には変換されない呻き声を漏らしている。男が視線だけでそちらを見やった直後、「失敗作」が突如大口を開けて襲い掛かった。しかし男の手には既に拳銃がある。瞬間、響いた銃声と共に、ヒト型をしていた腐った肉塊が床に膝をつく。間髪入れずに、男は手近な椅子を振り上げた。
「違う」
思い切り振り下ろした先で、トマトが潰れるような不快な音がした。構わず男はもう一度椅子を振り上げる。「違う。違うちがう違う!!」元の形を留めないほどに潰して、それでもまだ足りないと言わんばかりに男は血だまりの中で地団駄を踏んだ。
――あいつは妻を亡くして頭がイカレたらしい。
――元々変わり者だったが、もうあんな奴、誰も手が付けられない。
都会から離れた場所に建つこの研究所には、全く人が寄り付かなくなった。妻が死んで、最初こそ心配して訪れていた友人も親類も、すっかり様子の変わった男を気味悪がって縁を切った。
「……なんであいつが死ぬんだよ。置いて逝くのはオレの方じゃなかったのかよ……」
呟きながら、頭を搔き毟って蹲る。「死」の前では、知識も経験も、科学も医学も何の役にも立たない。いいやそんな筈がない、そうじゃない。必ず愛した者を取り戻す術はある筈だ。前例も根拠も何も無い、誰もが頭を疑うであろう方法でいい、縋れるものがあるのなら何だって縋ろう。どんな手を使っても。何をどれだけ犠牲にしても。許しは要らない。愛は勝る。勝っていいはずだ。たかが他人の命なんかと天秤にかけたところで、どちらに傾くことが正解かなんて分かりきっているじゃないか。自分だって奪われた側の人間だ。世界を呪って何が悪い。見ていろ、今に見ていろ。今に見ていろ。
部屋の隅に設置した檻の中から、化け物の唸り声が聞こえる。男は冷えた目でそちらを一瞥してから、自分の足元の血溜まりを見下ろした。頭を潰さずにおいた個体は、どうやら他の部分をもがれても活動可能らしい。拳銃の冷たい感触を指に馴染ませて、男は檻の前へ移動した。がしゃん、がしゃん、と鉄格子を揺らし、「それ」は男に向かって手を伸ばす。苛立ったように歯軋りをすると、男は「それ」の額に銃口を向けた。
「違う。あいつはもっと、」
もっときれいで、あたたかで、やさしくて。笑った顔は で、声は で、怒ったときは で、いつも していて、ちがう、もっと だった?違う、ちがう、チガウちがうちがうちがう。かしゃん、と床に拳銃が落ちる。記憶の中の彼女が、どんどんどんどんぼやけていく。自分は誰を、何を――わからない。いいや、忘れてなんかいない。ただ、違う、違うということが分かっているのだから、自分はちゃんと「わかって」いる。わかっている、はず。
「絶対生き返らせてやるから……そうしたら、今度はちゃんと……」
ちゃんと、ああ、なんだったか。思い出せない。男はふらついた足取りで、もう一度血溜まりを振り返った。最愛の人が死んでから、いくつの季節が廻ったのだろう。興味が無かった。此処には雨の音も陽の光も届かない。誰の声も届かない。あれから何度桜が散っていったのか、分からない。
ざあざあざあ。雨の中、男の体は地面に沈んでいた。体内の血液が失われていく感覚に、目を細めた。ああ撃たれたのか、と他人事のように理解した。夏の風も土の匂いも雨の冷たさも、随分と長い間忘れていたように思う。研究室に乗り込んできた特殊部隊の連中から逃げる内に自分の足がどんどん重くなり、上手いように歩けやしなかった。それもそうか、とこれまた他人事のように納得する。ずっとあの部屋に籠って、一歩も外に出なかった。まともな食事も、睡眠も、もう何年も摂っていない。体力は衰えていて当たり前なのだろう。こんなことなら、あいつの言う通りにたまには外に出て日の光でも浴びておくんだった。食事も、睡眠も、あいつの言う通りに、――ああ、ああ、そうだ、そうだったな。
「……なん……で…忘れ……て……」
そうだった。あいつの望みはきっとずっと変わっていなかった。どうしてこんなことすら思い出せなくなっていたのか。どうして、その叱る声も、口を尖らせた表情も、どうして。どうして思い出してやれなかったのだろう。
――私との約束、また忘れちゃったの?
拗ねた声が頭の奥で聞こえた。約束、そうか、約束したんだった。どれだろう。多すぎて、どれのことだか。ちゃんとたまには外に出ろ、だったか。食事を摂れ、睡眠をとれ。ああ、一つも、守れていない。お前は怒るだろうか。それとも、ごめんと一言謝れば、「怒ってないよ」と笑うだろうか。あのときのように、笑ってくれるだろうか。もう一度、そう、もう一度、笑いかけてほしかっただけなんだ。それだけだったんだ。
「……ごめ…ん……さく、ら……また、散……、…て……」
視界が霞む。愛しい人の声がする。ぼんやりと浮かんでいたその笑顔が、徐々にはっきりとしたものになっていく。ああ、なんだ、目を閉じてしまえばよかったのか。もっと早く、こうしていれば。眠ろう。少し、疲れた。お前がいない世界は、こんなにも、