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「谷裂~!このあと暇?暇だったらさあ、一緒に走りに行こうよ~!」

 上機嫌な声に谷裂が眉を顰めたのを見て、佐疫が声を押さえて笑った。すぐに気づいた谷裂がそちらを睨むが、そんなのはお構いなしににこにこ笑顔のが谷裂のすぐ近くまでやってくる。本当に上機嫌だ。尻尾を振って「待て」の状態で谷裂の返答を待っているの様子に、佐疫を睨んでいた谷裂もさすがに「ぐ…」っと何かを堪えるような表情になる。眉間に刻まれたしわがまた増えていく。

「ふ…、谷裂。付き合ってあげたら?」
「…肩が震えているぞ佐疫。笑うな」
「あれに付き合えるとか、アイツも相当の鍛練バカだろ」
「いやあ、前々から隠れて努力してたみたいだよ。谷裂にはバレてしまっていたらしいけど」
「隠す必要があったのか?…いや、今は無いようだが」
「隠さなかったら谷裂がのことスゲー褒めるとか!?」
「あのね~、谷裂が」
「黙れ!余計な話をするな!!」
「ははは、残念だね。谷裂には特別だったのに、『谷裂だけが知ってること』じゃなくなって」
「どういう意味だ!俺はべつに」
「なあ、谷裂褒めんの?」
「ん~っとね~…褒めないよ?でも私が頑張ったとき『まあ俺ならできると思ってたし~』みたいな顔してくれるときがあるからこれって実質褒められてるよね!?」
「俺がいつそんな顔をした!!勝手な台詞をつけるな!!調子に乗るなよ、。俺はお前をべつにそこまで評価しているわけではないぞ。ただお前がいつもくだらん理由で甘えたことを抜かし頭を撫でられて喜ぶなど犬のようなみっともない真似を晒しているのが気に入らな」
「そうだ!なんかさ~、谷裂ならこれくらい普通だろーって思っちゃってみんなも本人もあんまり気付いてないけどさあ、一番谷裂が褒められるべきだよね!?谷裂、自分が凄いことしてるって分かってないよ!」
「は、」
「私も谷裂のこと褒めたい!よしよ~し」

 谷裂との目線はほぼ変わらない。あの谷裂が、頭を撫でられている。しかも、「犬でも撫でるかのように」撫でられている。あまりの不意打ちと衝撃に固まる谷裂、まったく怒らせる気など無いむしろ喜ばせる気で撫でている、そしてその異様な光景にその場にいた全員が一度黙り込み――、次の瞬間、館中に響くほどの怒鳴り声が発せられた。(けれど結局怒鳴り声の主はその後自分と身長の変わらない女に引っ張られて仲良く鍛練に向かったという)



めでたしめでたし!