ローテンションカップル



「今日キスの日だって。する?チュー」
「しない」
「えー。ノリ悪ぅい」

 二人して非番の日。何をするわけでもなく部屋で過ごして、一緒にいるのにお互い自分の携帯デバイスを適当に眺めているだけ。偶然見つけた記事に載っていた「キスの日」を話題に出してみても、田噛は興味無さそうな返事しかしない。

「くだらねーネット記事に踊らされるな。あほらし」
「まー、たしかに。誰が決めたんだ?って感じですけどねー。適当な理由をつけてみんなイチャイチャしたいんでしょ。そんな理由がないとイチャイチャできないカップルもいるんだと思うよ。イチャイチャする?」
「しない」
「ノリ悪ぅい」

 とはいえ自分もそれ以上はウザ絡みせずに、また適当な通販サイト等を流し見る時間に戻る。まあ最初からそんなに期待していなかったというか、「マジ?じゃあチューするわ」って流される田噛は想像つかない。ただずっと沈黙なのもヘンだし、適当な話題を見繕っただけだ。会話はそこで終了だと思ったけど、田噛がデバイスから顔を上げて少しの間こっちに視線を向けたのに気づいて、私も顔を上げた。だというのに、私がそっちを向くなり田噛がまたデバイスの画面に視線を戻した。噛み合わない。

「っつーか、朝しただろ」

 こっちを見ずに田噛が当たり前のようにつぶやいた。私は眉間にしわを寄せる。は?って顔で田噛を見る。こっちを向かないので目が合わない。

「は?キス?……え、してなくない?」
「は?」

 あ、やっとこっち見た。けど私は未だに「は?」の顔だったし、田噛もおんなじ「は?」って顔だった。話、噛み合わない。しばらく沈黙が流れる。誰と間違えてんの?いや間違えてないか。今日一日ずっと一緒だったし。昨日も一昨日も、べつに田噛は私以外の女を部屋に連れ込んだりはしていないし。でも本当にキスなんて今朝したおぼえないな。私が首をひねっていたら、ふと田噛が何かに気づいたように「あ。」って声に出した。

「お前寝てたわ」
「……え、なに、ほんとのはなし?ひとが寝てるときにチューしたの?」
「まあしたことには変わりねーだろ。良かったな。キスの日ノルマ達成」
「いや、私覚えてないしカウントされなくない?なんで起きてるときにしないの?」
「めんどくさいから」
「え、意味わかんな。えっ、てか嘘じゃない?私起きたとき田噛寝てたし」
「二度寝した。一回5時に起きた」
「うーわ。私もやればよかったー。なんか敗北感ー。来年は私やるわ」
「『絶対来年には忘れてる』に千円」
「私も」
「同じ方に賭けんな」
「……」
「……」
「今チューする?」
「しない」
「ノリ悪ぅい」