「は~~……はああああ~~~」
「……」
「はああ」
「おい、うるせーよ」
「だって~、溜息も出ます!街はもうすぐクリスマスですよ?彼氏いない歴イコール年齢の喪女じょじょには世間のイルミネーションの輝きが眩しいんですわ」
「…モジョジョジョ」
「そう、知ってます?カートゥンネットワークのアニメ見てました?」
「知らねー」
「えー、田上さん結構世間知らずじゃないですか!?なんのアニメ見て育ってきたんですか!?この間もガンコチャンのアニメ知らない見たことないって言ってたし」
「は?知るか。で、クリスマスがなんだよ」
「あ、そうそう。私マジでこの歳で恋人ができたことないんですよ。でも周囲はクリスマス彼氏と過ごす輩ばっかりで……」
「ふーん」
「うっわ興味な~!いやほんと聞いてください!そりゃ好きな人とかイイ感じの仲になった人は今までいたんですけど、なんっか結局自分が原因でだめになるっていうかー、私がおしゃべりなせいで気味悪がられちゃうんですよね。おまえずっと壁に向かって話してるよな、とか言われて。それってつまり私がガーッて喋ってるのを聞いてると自分がまるで壁になったようだ、みたいな例えなんですかね?そんな喋りたいなら壁に向かってしゃべってろみたいな…あっすいません田上さんも結構迷惑こうむってます?」
「べつに。8割聞き流してる」
「うっわ興味な~!でもそれくらいがちょうどいいのかも。あっ!そうだ、聞き流すと言えばこの間ちょっと有名な占い師さんにお金払って人生占ってもらったんですけど、その時に占い師さんがいきなり『あなた霊感あるでしょう。見えちゃいけないもの見えてますね』とか言ってきてエーッこっわ!みたいな、いや無いです無いです生まれてこの方幽霊とか見えたことないです!って言ったんですけど、その後もしつこくお祓いグッズとかすすめてきて、えーなにこの人占い師じゃなくて霊媒師か?ってちょっと引きながらもう全部内容聞き流して帰ってきちゃって…たがみさん聞いてます?」
「聞き流してる」
「うっわ興味な~!っていうかたがみさん」
「なんだよ」
「……ク、クリスマスの予定、とか、どんなかんじですか!?」

 声が裏返ったけど許してほしい。ドッドッと心臓が悲鳴を上げてる。もうなんかドンドコドンドコうるさい。口から心臓飛び出そう。煙出そうなくらい顔を熱くしながら、その男の子の顔を見つめる。モッズコートの黒髪イケメンは、私の視線にめちゃくちゃ無反応なまま黙っていた。田上さんと会うのは実にまだ三回目くらいなんだけど、それでもこのクリスマス直前の運命の出会いを大切にしたい私は今日勝負に出た。初めて見たときから正直一目ぼれだったのだ。まじでびびっときたのだ。街で見かけて、人生初の逆ナンなんてものをして、田上さんはめちゃくちゃびっくりしてたし、頑なに「田上」という名前以外の情報はいまだに教えてくれないけれど、でも、また会ってください!という約束をどうにかこぎつけて、今日で三度目の逢瀬。本当住んでる場所も出身も連絡先も教えてくれないので、そりゃあ脈なんて限りなくゼロに近いのかもしれないけど、それでも、こうして三度会ってくれた優しさに感謝して神に祈りたい。もうちょっとがんばらせていただきたい。具体的に言うとクリスマス一緒に過ごしてほしい。好きにさせてみせる、なんて強気にはなれないけど、どうにかこうにか、もうちょっと距離を縮めたい。ぷるぷる緊張で足が震えてきた私に、田上さんが呆れたように溜息を吐いた。呆れた顔もかっこいい。顔がいい。顔がタイプ。でもほんとうに、なんかわかんないけどこれが恋だという自信はある。

「お前、馬鹿だろ」
「アッよっよく言われます!」
「だろうな」
「馬鹿なりに一生懸命生きております!」
「そーだな」
「そうっす!!」
「生きてんな、おまえ」

 そりゃあもう、あまり頭の出来はよくなくても、とりあえず「生きる」ということだけは今までやめずにやってこられているので。そこは自分をほめたいところでして。ああもう、本当緊張するとわけわかんないこと喋っちゃうな。心臓のドンドコはまだとまらないまま固まっていたら、田上さんがぼそっと何か言った。慌てて聞き返す。すみませんこんな大事なときに相手の言葉を聞き逃すなんて一生の不覚。

「な、なんて!?」
「めんどくせーから、会う場所ここでいいだろ」
「!! ク、クリスマス!?」
「……あー…そういう話の流れだっただろ」
「は、アッ、はい!!喜んで!!いつも通り、ここ、この公園の端っこのベンチ集合で!!いつもの時間に!!」
「俺はもう帰る」
「へあっ、はい、あの、えっ、いいんですか!!?」
「あ?」
「く、くりすます…」
「…べつに。会うだけならな」
「あ…ありがとう!!う、うわー楽しみ!ひえっ何着てこよ…あったがみさん!」
「なんだよ。まだなんかあんのか」
「ば、ばいばい!」

 えへっえへっ、とだらしなく笑いながら、ちょっとかわいこぶりっこして小さく手を振る。田上さんが眉を顰めて、呆れた感じの表情で、たぶんそれが田上さんの「ばいばい」の返事だと思って、私は満足して余計にきゃっきゃした。勇気だして誘ってよかった。どうしよう、たのしみだ。こんなに楽しみなクリスマスがかつてあっただろうか。サンタさんを信じていた頃の自分に戻った気分で、クリスマスが待ち遠しくなる。

「……おい、
「はっ!はい!あっ、名前覚えて、」
「……」
「……たがみさん?」
「…なんでもない」

 首を傾げる。なんでもない、といったわりに彼は何か言いたげだった。だけど結局、「じゃあな」って小さく言った。ちいさく、いった。それが真の「ばいばい」の返事だと気付いて、きゅーん!と心臓がくるしくなる。私はぴょんぴょん飛び跳ねながら手を振って、彼の背中が見えなくなるまで見送った。食い入るように見ていたつもりだったけど、どんどん遠ざかっていった背中が、ある地点でふっと見えなくなった気がした。ごしごし拭ってもっかい目を凝らす。見えない。もういない。……あしはやい。家、どこなんだろ。



「でね、でね、クリスマスの予定ができたのよ私にも!前話した、あの、ほら!逆ナンした!」
「えーっ!についに彼氏!?うっそお、信じらんない」
「なんでよー!超イケメンなんだよー!…あっごめんまだ彼氏じゃないな」
「いやーだって…まあたなんか変なモン見えてんじゃないの?」
「は!?お姉ちゃんまでなんてこと言うわけ!?」
「だってあんた昔っから『踏切のところで泣いてた女の子と仲良くなった』とか『ビルの屋上でおじさんが手ぇ振ってる』とか、あたしたちが見えないもん見てたし……」
「ええ!?なにそれ!っていうかそれじゃあまるでタガミさんが『生きてる人間じゃない』みたいじゃん!失礼すぎるよ!」






有限宇宙の妄想