休日が暇なのは今に始まったことじゃない。特に何かやりたいことがあるわけでもなし、お仕事が生活の大部分を占めている毎日の中の、ぽっかり空いてしまう穴みたいなもので。いや、べつに誰かさんみたいに仕事人間というわけじゃなくて。休める日は普通にありがたく休むし休日にも鍛練鍛練とかそういう熱血キャラでもないわけで。私は同じく非番の田噛の部屋で、ただぼーっとする、なんでもない時間を過ごしていた。ひまつぶし。
べつに田噛と特別仲がいいわけじゃないし、この部屋に訪れたのは本当に気まぐれというか、他に思いつかなかったというか、まあただの暇つぶしっていうか。ドアをしつこくノックして(それはもうしつこく)やっと入れてくれた。すっごく嫌そうな顔をされた気がするけど、気にしない。てっきり、「なんだよ休みの日くらい一日中寝たかったのに邪魔すんな」っていう台詞を吐かれると思ったのに、田噛ってばべつに寝てるわけじゃなかった。ただ、ベッドの上で、ギターをいじっていた。らしい。
「……田噛。なんか一曲うたって」
「あ?」
「え、だめなの?歌わないの?シャイなの?じゃあなんのためにギター持ってるの?」
「……」
めっちゃ「うぜえ」って顔された。顔だけで訴えて、言葉はない。無視。ちぇー、と口をとがらせて、そっぽを向く。いいもん、無視でも、べつに。頬杖ついて、ぼんやり、床に視線を落とす。ひまだ。自分の部屋にいようが、田噛の部屋にいようが。田噛は喋らないし、歌いもしないで、ただ黙々とギターをいじくってたまにちょっとの音量で音を鳴らして何かを確かめるくらいのことしかしない。それをちら、と横目で見て、溜息。その溜息に反応して、田噛がちょっとだけこっちを見た気がした。
なんかちょっと、意外。ちょっとだけ、羨ましい。田噛、私と一緒で特になんにもしない休日を送ってると思ったのに。勝手に仲間だと思っていたのに。私なんかよりずっと、やることがある。趣味とか、興味とか、そういうのもってる。いいな。うらやましいな。
「…たりらーったらー」
「……」
「たりらりーたったらー」
「……オイ」
「え、なに」
「なんだよその……歌?」
「え、歌であることすらあやしい?歌だよ。なんか適当な歌だけど」
でたらめな鼻歌。私よく、へんに沈黙した時とか気づいたら歌ってるけど。機嫌いい時とかも。意味なんてないけど、適当に口ずさんでいたら、田噛がちいさくぼそっと「へたくそ」って言った。聞こえたけど、聞こえてないふりしといた。
「ふんふんふーん…」
「…お前、暇だな」
「うん」
「部屋戻れば」
「えー…やだ。なんとなく」
戻りたくない、っていったら、絶対「なんでだよ」って聞くと思ったから、先回りして「なんとなく」をつける。なんとなく、やだ。なんとなく、田噛がうらやましい。なんとなく、ここにいたい。暇だから。暇だけど。
田噛はそれ以上なんにも言わないで、大きなため息だけついて黙った。私はぼんやり、ちいさく鼻歌をうたう。窓の外をぼんやり見ながら。
ふいに、音がした。ギターの音。さっきみたいに音を確かめるためだけの鳴らし方じゃなくて、じゃかじゃか、じゃーんじゃーん、って。曲っぽくなってるやつ。私は田噛のほうを見る。指の押さえるとことか、そういうのに視線を向けていて田噛はこっちを向かない。ぽけーっとしばらく見ていたら、やっと田噛が視線をよこした。目が合ってから、尋ねる。
「田噛、それなんの曲?」
「べつに」
「べつに?」
「適当」
もう一回私が、ぽけーっと、ぽかーんとする。田噛はやっぱりそれ以上なんにも言わないで、またギターに向き直った。
そう、そうなのか、適当な曲なのか。なあんだ、なんか、変わんないや。おんなじ。適当な曲。適当な歌。でたらめで、深い意味がなくてもいいもの。
「それ、曲だけ?なんか歌詞ないの?田噛うたわないの?」
「…絶対おまえの前では歌わねー」
「え、そうなの。じゃあ、私がうたってもいい?」
今度は田噛がちょっとだけきょとんとする。勝手にしろ、ってちょっとだけ笑う。うん、勝手にすることにしよう。だって今日は休みだ。勝手に、なんだってできる日。