「さ、災藤さん……もういいですってば…!」
「そう。では次の店へ行きましょう」
「いや『この店ではもういい』じゃなくて、もう十分いただきましたので! ホワイトデーの贈り物は!」

 もう何がなんだか分からないうちに、すごいことになっていた。バレンタインデーのお返しを贈る日、ホワイトデー。たしかに「三倍返し」なんて言葉をどこかで聞いたことはあるけど、災藤さんが私に次から次へと買い与えるお菓子も、服も、人形も、もう絶対とっくに「三倍」の域を超えているはずだ。買い物に連れ出されて、好きなものを買ってあげる、まではなんとなく予想はついたものの、おずおず最初に指さした一つ以降、もうあれよこれよという間に、災藤さんが好きに買い足していっている。しかも全部高価そうな、私にもったいないものばっかり。

「あんな、ただの手作りのチョコレートにこのお返しはおかしいですよ!」

 本当、ただのチョコレートだ。お店で買ったほうがはるかにおいしくて、災藤さんの口に合ったかどうか、いや本当合わなかったかもしれないのに、こんなふうに「お返し」されるなんて。私の言葉に、機嫌よく買い物していた災藤さんが振り返って、ふむ、と顎に手をあてて私をまじまじと見つめた。

「おかしい? 私がバレンタインデーに貰ったものが『ただのチョコレート』?」
「た、ただのチョコレートだったじゃないですか……」
「この程度のプレゼント、まだまだあのチョコレート一粒にも足りていないと思うのだけれど」
「足りてないわけないです! もうオーバーしてます!」
「そう。私にとってどれだけの価値があったか、おわかりいただけないようで」
「価値、っていわれても……」
「……私が、どれだけ嬉しかったか、まだわからない?」

 少し声を落として、災藤さんが囁く。内緒話をするように。すこし、拗ねたみたいに。こどもっぽく。災藤さんのそういう振る舞いが珍しくて、言葉に詰まる。

「それで、私が同じように喜ばせなくては、気が済まないというわけ」
「……いまの、言葉で多分、同じになったとおもいます」
「……おや、そうなの。私への遠慮ではなくて?」
「私がどれだけ嬉しいか、災藤さんのほうこそわかってください……」
「なるほど」
「はい……」
「では、あとはその三倍プレゼントを考えないと」
「三倍返しじゃなくていいです! もういいですってば!」


マカロンのきみ