「よし……平腹ーっ!味見の出番ですよー!」

 作ったばかりのチョコレートのお菓子たちを小さいお皿にいくつかのせて、食堂のテーブルへ向かう。「味見用」なので、平腹には申し訳ないけどちょっと見た目が悪いものを優先的に選ばせてもらった。綺麗にできた「本番用」のチョコレートは、本番に、とっておく。平腹とは事前に約束をしておいたのだ。こっちが頼みこむより先に、平腹が「ハイ!オレやる!味見!」と挙手してくれたので有り難い。たぶん食べたいだけなんだろうけど。いやみんなにもみんな用に用意はしておくんだけど、この手作りのチョコレートは特別なので、渡す際に失敗は許されない。

「……あれ?いないな……どこ行ったんだろ」
「おや、平腹を探しているの」

 人影のないテーブルを見て首を傾げていたところに聞こえたその声に、飛び上がる。ぎぎぎ、と首をそちらに向ければ、にっこり微笑む災藤さんがいた。声でわかってはいたけど。

「さ、災藤さん……」
「美味しそうな甘い香りがしたものだから、つい見に来てしまったのだけど」
「……こ、これはですね……」
「バレンタインデーのチョコレート?」
「……その……」
「探していたのは、平腹?」
「う……」
「私ではなく?」
「い、いじわる言わないでください……」

 なんのための、誰のための「味見」かなんて、わかってるくせに、そういうことを言う。私が肩を縮こませて恥ずかしさに俯くと、災藤さんがくすくす笑って、傍に寄った。

「災藤さんにあげるためのチョコレートですよ」
「それはよかった」
「で、でもあとでです!後で渡しますから!」
「おや、どうしておあずけに?」
「だって味見してからじゃないと渡せません。さ、災藤さんにあげるんですから!不出来なものはお渡しできません!」
「それで平腹に味見係を頼んでいたというわけ。なるほど?けれど私は、案外嫉妬深いということをお忘れなく」

 皿の上のチョコレートが一粒、その白い手袋の指先につままれる。手袋が、汚れないか心配。そんなふうにも思うけど、でも本当は、「だめです!もっときれいにできたやつじゃないと!」って叫んでその手からひったくってしまいたい。けど、できない。できないってわかってやってるから、ずるい。ずるいな。随分いじわるなひとを好きになった。随分、いじわるなひとに、好きになってもらえた。

「私より先に他の男に食べさせようとするなんて、いけない恋人だこと」


チョコレートのみが知る