「おかえりなさい、災藤さん……と、さん!」

 すらりとした長身の災藤さんの後ろから、その女性が顔を出した途端、思わず名前を呼んだ自分の声が弾んだような気がして焦った。誤魔化すように小さく咳払いをすれば、そんな様子が微笑ましいようにその人はくすくす笑う。ああ、恥ずかしいや、参ったな。見慣れたはずの館のエントランスは、彼女が立っているだけでも普段より煌びやかな背景に思える。まぶしい、とても目を惹く、華やかな女性だ。災藤さんと並んでいると、一層絵になるような気がした。

「ただいま、佐疫。見ての通りのお客人なのだけれど、応接室は今空いてる?」
「はい、もちろん。お茶を用意したら持っていきます」
「どうもありがとう」
「ありがとう、佐疫くん。お邪魔するね」
「どうぞ、さんもゆっくり……」

 言い終わらないうちに、するりと細く長い指が俺の頬を撫でた。俺のすぐ傍を通り過ぎるついでに、自然な動作で。ほんの一瞬のことだったと思うのに、その手が触れて指先が離れる最後の瞬間まで、短い夢の中にいたような、そんな心地になる。災藤さんが名前を呼ぶ声で、はっと我に返ったくらいだ。射抜くように俺を見つめていた彼女の瞳が弧を描き、たのしげに笑って離れていく。はあい、と悪戯を咎められた子供のような返事を聞いて、ああさっき災藤さんが呼んだのは自分の名前ではなく彼女の名前だったのだと遅れて気付いた。

「こら。ちょっかいを出さないように」
「出してないでしょう?むしろ可愛がるつもりで、挨拶しただけ」
「まったく。だからあまり貴女をこの子たちに会わせたくないのだけれど。管理長も顔を顰めますよ」
「うふふ。どうもありがとう。管理長殿がいないタイミングで招いてくれて」

 和やかのようで、そうでもないような。少し牽制し合うような言葉も交わしながら、災藤さんに促されて、応接室へと歩いていく。扉の向こうに消える前にもう一度、自分と目が合った気がした。ほうっと見つめていれば、さんが指先だけで小さく俺に手を振り、そのまま、その指をそっと自身の柔らかそうな唇に押し当てた。先ほど、俺の頬を撫でていった指が。
 どっ、と自分の顔が熱くなった。心臓がうるさい。いや、本当はさっき頬を撫であげられたときから、ずっとうるさかった。どんどん速くなる鼓動を、おさえられなかった。
 俺の反応を愉しむような視線は、災藤さんの声に引っ張られるように扉の向こうへ消えていった。

 静まりかえった廊下にしばらく立ち尽くす。自分の心臓の音だけがうるさい。おさえられない。とめられない。とめられないのだ、ずっと前から。





 さんは、災藤さんがたまに館へ連れてくる、大切なお客様だった。閻魔庁の関係者だという彼女の来訪は、不定期に、そして突然だった。どうやら肋角さんとはあまりそりが合わないらしく、二人が顔を突き合わせているところを見たことが無い。いつも決まって、彼女は災藤さんに連れられてやってくる。そして肋角さんとの仲がそうであるとなれば、恐らく谷裂あたりは彼女のことをよくは思わないだろうし、態度にも表すだろう。平腹なんかもそもそも、お行儀よく接する、というのは向いていない。よって、さんが館にやってくるとき、決まって応対を任されるのは俺だった。「佐疫なら任せられる」と、災藤さんからお墨付きをもらっている。俺としても、断る理由は無い。むしろ、有難かった。初めて災藤さんに紹介されて顔を合わせたときから、俺はあの人に心を奪われているのだ。
 だって、あんなに綺麗なひとを見たことがない。あんなに素敵なひと。俺はぴしりとお行儀よく、特務室一番の優等生としてここにいますよ、みたいな顔をして、彼女に名前を呼ばれるため、笑いかけてもらうためにそこにいた。彼女がやってくるたびに胸を高鳴らせた。とはいえ、話せる時間も内容も限られている。さんは館にやってくるとすぐに応接室へ向かってしまう。そして当然ながら、上司である災藤さんと閻魔庁のさんの仕事上の会話を耳に入れることはタブーだ。俺の役割は玄関から応接室へ向かうまでの御挨拶、部屋へお茶をお持ちする少しの時間(これは必ずノックをしてから。いいと言われたら部屋に入ることを義務付けられている)、そしてお帰りになるときの御挨拶だけ、だ。

 だった、はず。

「ごめんね、佐疫くん。突然で」
「いえ、ちょうど僕が対応できるタイミングで良かったです」

 その日初めて、さんは一人で館にやってきた。災藤さんと連れ立って、ではない。いつもとは違う状況に、少し緊張はあるものの、変わらず館の中へ招き入れ、応接室へと案内をする。いつもさんの隣には災藤さんがいた。二人きりで話すのは初めてだ。
 とはいえ、その―…災藤さんの目を盗んで、目で合図を送ってきたり、ほんの少し触れてきたり、そういうことはあったけど。

「でも、珍しいですね。いつも災藤さんと都合をあわせてお二人で、という印象だったので。災藤さん、先ほど外出されたばかりですから、戻るのに少しお時間をいただくかもしれません」

 約束をしていたところに災藤さんが急に外出の予定が入ってしまったのか、またはさんの方に、予定外に災藤さんへ伝えなければならない案件ができて、急にやってきたのか。どちらにせよ、館の入口でその姿を見たとき、中へ案内する以外の選択肢は無かった。災藤さんが戻るまで、応接室で待っていてもらおう。そう思って。

「今、お茶をお持ちします」
「ありがとう。二人分でお願いね」
「え?二人分…ですか?」
「そう。お客人ひとりで時間を潰させるの?こっちにきて、一緒にお茶をしましょうよ」

 応接室の汚れ一つなく整ったソファーに座るさんが、そう言った。俺は自分の耳を疑って、まばたきを繰り返す。さんはますますたのしそうに、肩を揺らして笑った。くすくすと、その笑う様子さえ可憐だった。

「佐疫くんとお話がしたいって、私ずっと思ってたの」

 俺は言葉に詰まって、もう本当に何も言えなくなって、ただ一言、「わかりました」と絞りだし、お茶を淹れに急いだ。
 そこからはもう、本当に夢みたいな心地で、浮かれていた。さんが俺の目を見て、俺と向かい合って、話をしている。最初は何を話したものかとぎこちない世間話ばかりだったけど、さんはずっと微笑んで聞いてくれた。淹れたお茶を美味しいと喜んでくれた。災藤さんからよく俺の話を聞くのだと笑っていた。俺のピアノを聴いてみたいと言ってくれた。真面目で優秀な子だと褒めてくれた。さんの好むお菓子の話を聞いた。今度手土産に持ってくる、君には特別おすすめのを食べてほしい、とも。
 そうしておしゃべりを楽しんだ末に、さんはソファーから立ち上がった。

「そろそろ帰ろうかな」
「…えっ?」
「あら、私に帰ってほしくない?嬉しい」

 ふふ、と悪戯っぽく笑うさんに、からかわないでください、と少し眉を下げる。帰ってほしくないのは、確かだ。もっと一緒に過ごしたいと思ってしまう。けれど、自分の発した困惑の声は、そういう意味ではなくて。

「災藤さんがまだお戻りになられていないので……」
「うん。だからよ。彼が帰ってくる前に帰らなくっちゃ」
「……、…え?」

 さんが俺の傍までやってくる。どきり、として、足が動かない。そんな俺へ体を寄せて、距離を詰めて、耳元で囁いた。

「災藤には内緒で来たの」
「……どうして、」
「言ったでしょう。佐疫くんとお話がしたかった、って」

 くすくすと、耳元で笑う声がする。何も言えなくなって、頭の中が真っ白になって。耳元に寄せられた唇が、いたずらに頬をかすめた。

「私とのこと、秘密にできる?優等生さん」





 それから何度か、さんは一人でこの館に現れた。俺とおしゃべりがしたい、と言って、応接室でお茶をする。災藤さんが帰ってくる前に、帰っていく。もちろん、変わらず災藤さんに連れられてやってくる日もある。災藤さんとやってくる日はあまりさんと一対一では喋ることができないので、ちょっとだけ寂しいけれど。それでも災藤さんの目を盗んで、また目で合図をしてきたり、小さく耳打ちをしてきたり。どうやら本当に災藤さんには俺と会いに館へ顔を出すことを内緒にしているらしく、何もその件について話を振られることはなかった。
 しばらくの間は。

「最近随分と、と仲が良いみたいだけれど」

 そう告げられたのは、災藤さんにピアノを教わっている最中のことだ。本当になんの前触れもなく、ただ、「それじゃあここをもう一度弾いてごらん」と言われて、指示通りに弾いていたところ。すぐ背後で楽譜と俺の手元を覗き込んでいた災藤さんの声は、ピアノの音に掻き消されることなく俺の耳に届いた。
 指が上手く動かなくなり、楽譜に書かれた音とは違う、耳障りな不協和音が鍵盤から生まれる。観念するようにピアノは演奏を止めて、俺は自分の手を鍵盤から離し、膝の上へ置いた。

「それは……」
「大方、私の許可無く彼女が一人でこの館へやって来たのを、お前が迎え入れたのでしょう」
「……すみません」

 膝の上に置いた自分の手首を自分でぎゅっと力を込めて握る。災藤さん相手に、とぼけたり、嘘を吐いたり、なんて無駄だと思った。事実、こうして全部お見通しなんだから。災藤さんが今どんな表情で俺を見下ろしているのか、顔を上げて確かめることが出来ない。ただじっと、俺の謝罪を耳に入れた後も、値踏みするように沈黙していた。その無音の時間はしばらく続く。いや、短い間だったのかもしれないけど、俺には恐ろしく長く感じた。
 どんな叱責を受けるだろうか。災藤さんに秘密にするべきではないことを、黙っていたのは事実だ。相手がさんだったからいいと思っただとか、聞かれなかったから言わなかっただとか、そんな稚拙な言い訳が通用するはずがない。
 断罪を待つ俺の肩に、災藤さんの手が置かれる。それが自分の思っていたよりずっと軽く、ぽん、と音がするような叩き方で、拍子抜けしたように俺は困惑したまま思わず顔を上げた。

「素直で結構。から口止めされたことでしょうし、お前を責めるつもりは私も無いから」
「災藤さん…」
「本当に、も困った人だこと。彼女には私からきつく言って聞かせるから」
「けどさんは何も……その、ただ世間話をされに遊びに来られているようでした。本当に、それだけで…」
「お前が気にすることではないけれど、こちらとしてもいろいろと誓約を交わした上で此処へ来ることを許可しているの。それを破って私に内緒で館に踏み入る時点で、許されることではない、ということ」

 災藤さんの言っていることは正しい。きっと。というか、俺なんかが口を挟めることではないのだ。上に立つ人たちの間での決め事や、暗黙のルールや、その重さなんて。俺が知ることはできないもの。
 それでも、と俺が何か言いたげな様子に気付いたのだろうか。災藤さんは少し思案するように顎に手をあてた後、ひどく優しく微笑んで、俺に告げた。声音も、怖いくらい優しいもの。

「どうやら本当に、念を押しておく必要がありそう。あまり佐疫で遊ばないように、と」

 その言葉に、何も言えずに黙り込んだ。膝の上に置いた拳をぎゅっと握る。
 遊び。そうなのかな。ああ、そうなのかもしれない。災藤さんの目にはそう映る。そして、事実、あのひとにとっても。

「私からも言って聞かせるけれど、もし万が一、それでも懲りずにが一人でやってきても、相手にしないこと」
「……はい、わかりました」
「そう、けっして二人で会うことのないように」
「二人で……会ってはいけないんですか」

 当たり前だ、わかっているのに、思わずオウム返しのように唇が動く。本当に、二人で会ってはいけない?ふたりきりで話してはいけない?どうして、そこまで?
 しつこく食い下がるつもりはなかったけれど、そこで初めて災藤さんが少し驚いたように目を瞠った。けれど次の瞬間には、ふっといつも通りの微笑を浮かべる。

「あのひとはお前が思っているよりずうっと、悪いひとだから」





「さて。お仕置きの理由に心当たりは?」
「さあ?ありすぎて分からないわ」
「呆れたこと」

 とぼけたふりはしたけれど、なんとなく察していた。だって今日、館にやってきてもお出迎えがあの子じゃなかったから。代わりに、見たことのない小柄な、少し気弱そうに眉を下げた男の子が応対してくれた。災藤の口調と眼差しからして、彼のお気に入りの子であることは明らかだったけれど。「あの子」の他にもいたらしい。災藤のお気に入りで、そして災藤をよく慕っていそうな、可愛い部下。
 顔の横にある、災藤に押さえつけられた自身の手首を視界に捉える。やけににこにこ距離を詰めてくると思ったら、こうだ。特に抵抗もせずにソファーに押し倒された私が少し意外だったのか、災藤は疑り深く私を見下ろしている。

「まだ何か企んでるのか、隠し事してるのか、って?してませんよ。観念してます」
「そう?それは良い心がけで」
「ただちょっと残念で、つまんないな、って。もう少しもつと思ったのに」
「おや、まあ。まだ遊び足りない?佐疫で」
「人聞きの悪い。遊びじゃないかもしれないじゃない。純愛かもよ?純愛」
「御冗談を。貴女は誰のものにもならないと思ったけれど?」
「まあ、どうしてそう思うの。私があなたのものにならないから?」

 彼の目が、細められる。穏やかなものではなく、ひんやりとした嫌な空気を纏いながら、捕食者のような目をしていた。けれど、掴まれた手首に力がこもるだとか、分かりやすく怒りの炎がその瞳に灯ることはないのだ。そう、この手首の拘束だって、払おうと思えば払えるのかもしれない。私がそれをしないだけで。
 私の言葉に何を返すでもなく、ただ少しの間黙って私を見下ろしていた。私も目を離さない。見つめ合ったまま、しばらく。やがて災藤がゆっくりと体を沈ませて、顔を近付けた。

「……本当に、悪いひと」

 囁く声に、私は何も言わない。すると少し声のトーンを変えて、災藤はにっこりと、わざとらしく微笑んだ。

「今回のことは、さすがに"あの方"にも黙っていられないでしょう。私の目を盗んでこの館で好き勝手するだなんて、こちらとの立派な契約違反だもの。さあ、なんて報告しましょうか」
「……うふふ」
「ふふ」

 本当、わざとらしい笑い方。私のもそう。ぐっと首を動かして、災藤の頬に音を立ててキスをする。キスをする瞬間だけは、ちゃんと目は閉じてあげた。その一瞬だけ。また近い距離で見つめあって、またわざとらしくにっこりする。

「これで許して?」
「随分可愛らしいこと」
「でしょう?」
「ええ、自分が子猫にでもなったのかと錯覚するくらい。けれど残念。私は子猫とは違うから」

 む、と唇を尖らせたら、それまでとは違う、くすくすとからかうような笑い方で災藤が笑った。なるほど、なるほど?じゃあ子猫にするキスじゃなければ、口止め料になってくれるのかしら。私は唇を寄せる。そして目を閉じる。瞼の裏で、あの子のことを考えた。災藤のことだから、あまりあの子を咎めるようなことはしていない、と…いいけど。どうかしら。もう少しもつと思ったのに、とは言ったけど、もしかしたら「思ったよりも、もったほう」なのかもしれない。だってきっとあの子のことだ、優等生くんだから。私との約束なんて放って、すぐに災藤に話すこともできただろうに、しなかった。話さないことを選択した自身に、困惑したかもしれない。災藤にバレたとき、何を思っただろう。きっと叱られ慣れてなんていないだろうに。あの子は優等生だから。こんな悪いこと、きっと知らない。







「こんにちは、佐疫くん」

 エントランスの扉を開けた先に立っていたのは、そこにいるはずのないひとだった。一人で、ここに来るはずのない。俺が驚いて目を見開くのを見て、たのしそうに、嬉しそうに笑った。

「え…っさん!?どうしてここに……」
「どうして?理由は変わってないよ。佐疫くんとおしゃべりがしたいから」

 胸を突かれたような衝撃だった。どうしてそんなことを言うんだろう、この人は。どうして、どうして、とそればかりが頭の中に浮かぶけど、ただ一つ確かなのは、今この瞬間、たしかに目の前にさんがいて、俺だけに笑いかけてくれている、ということ。

「で、でも災藤さんから、もう一人では来ないようにお話があったんじゃ……」

 さんに会えたのは嬉しい。けど、それ以上の後ろめたさに、上手く目を合わせられない。それを察したのか、さんは少し大袈裟に溜息を吐き、俺の方へ手を伸ばした。びくりと後ずさりかけるけど、それより先にさんの手が俺の頬を撫でた。

「そうね。ひどいなあ、佐疫くん。秘密にしてくれるって信じてたのに。お陰で災藤に怒られて酷い目に遭ったのよ」
「すみません。その…、…俺から話したわけではなくて、災藤さんはとても勘が鋭い人だから……いや、言い訳ですね。上手く隠せなかった俺が悪いので……」
「……佐疫くん、本当は自分のこと"俺"って言うんだ?」
「えっ?」

 最初、何を言われたのか分からなくて素っ頓狂な声が出た。けれどすぐに相手の言いたいことが分かって、カッと顔が熱くなる。そうだ、いつもはさんの前では「僕」だった。思わず、咄嗟に、取り繕えなかった。それを指摘されたことが、何故か、異常に恥ずかしい。他の誰に言われるのでなく、このひとに言われたことが、はずかしい。背伸びをしている、真面目ぶっている、と、このひとにだけは見透かされたくなかったのに。

「いいよ。私、その方が好き」

 鈴を転がすような声で、そんなことを言う。心臓がゆっくりと、いっそ焦らすように、深く深く押しつぶされていくような気持ちになる。くるしい。呼吸の仕方がわからなくなりそうだ。
 ぐ、と息が苦しいまま、少し俯く。その間にもさんの指が俺の頬に添えられている。おさえよう、と、思ったのに。とめようと思ったのにな。こんな気持ち。

「秘密にできなくて、……それでも、俺と会ってくれるんですか」
「……そうねぇ。でも、隠し通してくれなかったから、ちょっとがっかりしてる」
「じゃあ……もう、会ってはくれませんか」
「ううん、逆」
「…逆?」
「そう。私の期待を裏切った罰として、私とこれからも会ってちょうだい。館はやめようかな、お出かけしましょうよ」

 顔を上げて、目を瞠った。いたずらっぽく、だけど大人の妖艶さを残しながら、さんが微笑む。心臓が、もう押しつぶされた末に、どろどろと熱で溶けだしている。まるでそれを見透かすように、本当に自身の目でそんな愚かな俺の心臓の有様を見ているかのように、彼女は自身の指先で、俺の胸のあたりをなぞった。
 そんなの、ちっとも罰にならないですよ、と、言いかけてやめた。うそ、きっと何よりも苦しい罰に違いない。

「私のために悪い子になれる?」

 ああ、ほんとうに、「……ずるいひとだな、貴女は」

綺麗な色じゃなくていい