「?ドア開けてもいい?」
「だめだけどどうぞ!!」
「え?えーっと、準備ー……できてない、ね」
ノックの後にそうっと私の部屋のドアを開けた佐疫が、部屋のちらかりように苦笑する。あちこちに、着ては脱いで放り投げた服が落ちているし、鞄や帽子もどれにするか迷って全部出したし、化粧品の入ってたポーチもひっくり返ってる。私はそんな大変なことになっている汚い部屋の真ん中で、物に埋もれながら、お手上げ!といわんばかりに両手を上げて嘆く。「もうやだ!!」
「着てく服全然決まんない!髪型も決まらない!」
「ああ、それでこんなに荒れてるんだ…」
「もうやだ!何を着てもなんか違う!可愛いかもって思っても実際着てみたらなんか違う!」
「うーん。そう?どれも似合うと思うけど…あ、これは?」
「お気に入りだけど前にデートで着たことある」
「うん、覚えてる。可愛かったから。また着ないのかなって」
「一度デートに着た服またデートに着るのなんか…乙女心的に嫌。『また同じ服…』ってなる。一回きりがいい…」
「そ、そっか。お気に入りなら何回着てもいいと思うけど…本人がそう言うならダメなのかな…」
そう言いながら、落ちてる服を一つ拾っては、畳んで横に置く。ハンガーにかける。私が駄々をこねる子供みたいにじたばたしている間に、佐疫がちょこっとずつ部屋を整える。私が頼んだわけでもないし、佐疫は「やってあげてる」感は全く出さない。ただ普通に、当たり前のように、私の話に付き合い、助言し、否定せずに耳にここちのよい言葉を返しながら、そういうことをする。
「……もうやだ」
「何が?」
「こんな私が」
「もう、またそうやって急に落ち込む」
「出かける直前いっつも部屋ちらかすし」
「毎回デートのたびに準備に張り切ってくれるからね。俺はそれ、嬉しいけどな」
「佐疫に頼りっぱなしだし」
「まあ、俺で力になれることなら」
「何着てもどんな髪型にしてもかわいくないし」
「可愛いよ」
「…かわいくないし」
「かわいい」
優しく、真っ直ぐな声でそう言う。私はしばらく黙った後、もう一度、「かわいくない」って言った。張り合うように佐疫が「かわいい」って追いかけた。しばらく沈黙。ああ、なんか、ああもう、って私はますます自分が嫌になって顔を覆う。
「さいあくだ」
「え?」
「自分の性格のクズさに嫌になる」
「そんなこと…」
「だって私、ずるいもん。佐疫が優しいの知っててやってるもん」
顔を覆ったまま、拗ねた子供みたいな言い方をした。顔をそっちに見せないせいで、佐疫が今どんな顔をしているのかなんてわからないけど、きっと困った顔をしている。困ったように笑っている。そんなふうに予想がつく自分も、困らせるってわかってる自分も嫌になる。
「『そんなことないよ』待ちしてる。佐疫優しいから『かわいい』って言ってくれるのわかってて『私かわいくないもん』って言った」
「……」
「……」
「知ってる」
「…………知ってるかぁ」
「うん。あ、もちろん本当に可愛いとは思ってるけど…俺も、『これを言ったら喜ぶんだろうな』って、なんとなく『これが正解だろうな』って考えて答えを口にしてるし、行動に移してる」
辺りの服をおおかた畳み終わって、佐疫が床に座り込んでる私の傍に座った。優しく、さわやかに、にこっと笑いかけられる。私はその顔をぽけーっと眺めて、思った。さすがの優等生だなあ。模範解答みたいな存在だ。
「安心した?」
「何が?」
「俺も案外ずるいし、『知っててやってる』よ」
「うん」
優等生で、模範解答で。それらと対極にあるような「ずるい」という言葉を、佐疫が遣う。だけど「うっそだー」とか「そんなことないでしょ」と言う気にはならなかった。こういう言葉で私のだめだめな在り方に寄り添うのも、佐疫の優しさであり、確かに、ずるさだった。そんなふうに言えば私の気持ちが軽くなることを、知っててやってるような気がした。佐疫はなんでも知ってる。私の扱い方まで全部。ああ、なんか、また嫌になってきたな。私にはもったいないな。なんでこんなかっこいいやつとデートするのが私なんだろうな。全世界に申し訳なくなるな。(なんて言いながら本心では絶対このひとを手放したくはないことを私は知ってるし、私が知っていることを佐疫も知っているんだろうな)
「……佐疫、『はかわいいよ』って言って」
「うん。はかわいいよ」
「いいこだよって」
「良い子だよ」
「……」
「…もっと言っとこうか?」
「ううん。満足した」
「うん、そっか。良かった。じゃあ、そろそろ出かけようか。俺のおすすめはこっちの服かな」
「うん。じゃあそれにする」
「よし、決まりだね」
「佐疫のそういうとこ好きだよ」
「ありがと。俺ものことが好きだよ」
「どういうとこ?」
「かわいいところ」
「より詳しく言うと?」
「うーん……ちょっとめんどくさくてかわいいところ?」
「ありがと。好き」
きっときみよりしってるきみのこと