「また泣いてる?」

 唇をそっと離して目を開けたとき、視界に映る彼女の瞳はいつも潤んでいる。俺の言葉に、彼女は眉を下げて、唇の形がへの字になった。ごめんなさい、という弱々しい声と一緒に、俯こうとする。だけど俺がその頬に触れると、耳をぴくりと震わせて、おずおず顔を上げてくれた。二回目のキスは、一回目より短く。だけどやっぱり唇を離したとき、それを合図みたいにぽろっと彼女の瞳から雫がこぼれる。苦笑して、俺はその涙を指先で拭った。

「ごめんなさい…」
「謝らなくていいよ。嫌がられて泣かれちゃうのかなって、最初はちょっとびっくりしたけど…」
「まさか!すみません、ちがうんです…!」
「ああ、うん。大丈夫。今は、違うんだなって分かってるから」

 必死に否定するから、そんなに焦らなくてもわかってるよってくすくす笑う。赤い顔で、本当に恥ずかしそうに、肩を縮こませている彼女。「へんですよね」って自虐的に言うから、「変じゃないよ」ってはっきりと答える。おかしくないよ、ちっとも。

「好きすぎて、涙がでる……って」
「うん」
「ぶわっ、て…なって」
「ふふ。うん」
「胸がいっぱいになって、とめられなくて。キス…とか、して…佐疫さんも私のこと好きなんだ、好きだからしてくれるんだ、って思っちゃったら…」
「…うん」
「や、やっぱり、ヘンですよね…!?」
「ううん」
「…そう、ですか?」
「俺は嬉しい、かな。…あ、泣かれて嬉しいって、変だね?」

 あはは、と声に出して笑って、「俺のほうが変かも?」って小さく首を傾げたら、が頭を振ってその言葉を否定する。「佐疫さんはへんじゃないです。だいすきです」予想外の言葉に、ちょっと心臓が悲鳴を上げそうになった。ずるいな、そんなかわいいこと。困っちゃうな、すごく。だから、俺も負けじと彼女を困らせる。

「もう一回、してもいい?」

 きっと今度は、一回目よりも二回目よりも長く。が、顔をますます真っ赤にして、言葉を詰まらせて、潤んだ瞳でちいさく呟いた。「泣いちゃう…」うん、知ってる、ごめん。俺はあと何度君を泣かせるだろう。でも、好きだから。好きだからなんだ。キスがしたいのも、君が、泣いてしまうのも。


透明なキスに眼を凝らす