おとなだって恋をみる



「あ、あの、私この前……肋角さんが、綺麗な女の人と歩いているのを見たんです……け、ど……」

 俯いて、震えた声で。きっとその話を切り出すことに大変な葛藤があったのだろうとわかる。私のいない、肋角と二人きりの機会に話せばいいのに、任務の報告ついでに告げるなんて。そんな機会を待っていられなかったか、つくる勇気がなかったか。可哀想に。
 あの女性とはどんな関係なのですか?と、そう尋ねたいのは誰が見ても明らか。だというのに、執務机に悠々と構える男は意地悪く、続きの言葉を聞きたがって何も言わない。結局、

「な……なんでもありません! ごめんなさい、失礼します……」

 と、頭を下げて彼女は逃げるように部屋を出ていった。肋角の顔を窺えば、話を最後まで聞けなかったことに不服そうにしているわけでなく、むしろ少し機嫌が良い様子。おやおや、と大袈裟に肩を竦めてみせる。

「どうして『ただの仕事の関係者』と答えてあげないんです?」
「なに、聞かれなかったからな」
「可哀想に。すっきりしないまま、きっとあの子は貴方と相手の女性の関係について頭を悩ませる日々が続くでしょう。寝ても覚めても頭の中はそればかり。仕事も手につかないかも」
「かもしれんな」
「悪いひと。それが狙いなのでは?」

 その言葉には答えず、口元にうっすら笑みを浮かべるだけ。

「あんなに純粋でいたいけな女の子相手に、駆け引きのおつもりで? 上手くいけばいいけれど。あまり突き放しても、あっという間に逃げられてしまいますよ」
「その時は此方から引き寄せればいい」
「随分、自分の手元に戻ってくる自信があるようで」

 今度は先程よりも分かりやすく、その自信を含んだ笑みが浮かんでいた。大人の恋愛の駆け引き……と、見せかけて、わくわく心を弾ませている少年の様でもある。くすりと小さく笑ったら、「お前だって楽しんでいるだろう」とでも言いたげに睨まれる。おお、怖い。けれど、たしかに。傍で見ている立場としては、実に面白い。いえ、茶化すつもりはないけれど。ええ、純粋に。応援のつもりですとも、管理長。