「きりしま~…」「なんだ?」「……なんでもなあい」「そうか」

 ぼーっと、どこを見てるともわからない視線の投げだし方をしながら、名前を呼ぶ。返事をしようが、それ以上はなにも会話になってやくれない。疲れてるのか?嫌なことでもあったのか?聞いたところで、それも「なんでもない」とはぐらかされるのだろうな、となんとなく分かってしまう。何を言えば正解だろう。どんな言葉で慰めることができるのだろう。考えても、どれも、あまり意味を持たない気がした。

「きりしまぁ」「……なんだ?」「…なんでもない」

 なんでもない。そう言い聞かせるように繰り返しながら、溜息を一つ。そのあとゆるゆるとこちらに伸ばされた手を取って、指を絡ませてみた。「なんでもないんだけどね」やっと、目が合った。

「何か言ってほしいわけでもなくてね」「ああ」「よくわかんないよね」「そうだな」

 素直に頷いた。本当に、どんな対応が正解か分からなかったからだ。よくわからない。それに尽きる。慰めろと言われれば、その言葉を考えよう。叱れと言われれば、何が間違いであったか一緒に考えよう。けれどどれも、相手の求めているものではない気がする。「そうだよねえ、わかんないよねえ」ぼんやりとした声。この「ぼんやり」というのは、「のんびり」と似たような音をしているわりに、どこか仄暗い。

「こういうときに斬島に会いに来るとね」「ああ」「自分にはご褒美みたいなのにね」「ああ」「ちょっと申し訳なくなるよね」「そうなのか」「このへんな罪悪感はなんだろうね」「へんだな」「うん、なんか、ずるしてるような気持ちになるの。自分にはもったいないご褒美をあげちゃった気になるの」

 ごめんね、と謝られた。この謝罪の意味もよくわからない。何か言わねばと気を遣わせてしまうのが申し訳ないだの、部屋に押しかけて申し訳ないだの、そういうことだろうか。べつに、気にしていないんだが。何かを解決してやったわけでもない。俺は、ただここにいるだけなんだが。

「とりあえず」「うん」「眠るか」「うん」「抱きしめるか」「うん」



(深夜のパンケーキ)