「あー?なに!」
「なんで私の部屋でゲームしてんの?」
「ん?…んー、げっ!やべ!死ぬじゃん!」
話の途中で何やらゲーム画面上でピンチに陥ったらしく、わざわざ私の部屋でゲームをしている理由は解明されないままとなった。がががが!ばしゅんばしゅーん!ってゲーム上の音と、かちかち凄い速さと力強さで平腹がボタンを押しまくってる音が部屋に響く。時折平腹が独り言いう。私はというと、はあ~っと深く溜息を吐いて、肩を落とす。いや、本当になんで平腹はここに来ているんだろう。よりにもよって私が仕事で失敗した日に、こうして。
「……気晴らしにゲームでもって誘ってくれるのかと思ったら…テレビゲームじゃないしな…携帯ゲーム機だもんなそれ…」
「お?もやりてーの?オレこいつ倒したらな! うげっ!コイツまだ死なねー!!はあー!?」
「いや、いいですけど…そういう気分じゃないので……」
せめて癒されるゲームとかだったらな。どーぶつのもりとかが良かったな。私はまた溜息ついて、ベッドの上で体育座りして、顔をうずめる。その間にも騒がしく平腹がすぐ横でゲームを続けている。なんでそんなでかい音でゲームやるんだろうな。まあ、べつにいいですけど。もう、なんだっていいんですけど。平腹のことだからべつに、私が元気なさそーだから心配でそれとなく部屋に顔を出した、とかじゃないんだろうな。暇だったんだろうな。気紛れなんだろうな。あんまりにもそれがわかるから、なんか、はあ…とため息が増える。自分で話し出すのもなんだか癪だしみっともなかったし、平腹に相談したところで真面目に親身になって聞いてくれるはずがない。…ない、と、思いながらも、もうなんだっていいからとりあえず、ぼそりと吐き出してみる。よわっちょろい、私。
「平腹は悩み事とかなさそうでいいよね。仕事で失敗してもへこまないよね。ていうか失敗だとも思ってない…仕事中もやりたい放題だもんな…図太っ…メンタルが図太っ……はあ~…」
「ん?オレ褒められてんの?」
「まあまあ褒めてるけど……はあ~…やだなあ、なんかもう、へこむわあ…なんにも上手くいかない……肋角さん絶対呆れてる…もうきっと庇いきれない…いよいよ見捨てられるんだ…迷惑ばっかり……全然ちっとも役に立たない…私が愚図なばっかりに…」
言いながらどんどん悲しくなってきて、めそ、としてしまいそうになるけど。部屋には平腹がゲームをする音が絶え間なく聞こえてくるので、なんか、あっこれ全然聞いてねえわ…って思うと、なんか、もう、どうでもよくなってくる。はあ~、と何度目か分からない溜息を吐いて、ぼんやり、鬱々と、目を閉じる。なんだかなあ、ほんと…なんだかなあ。
「あーっ!!死んだ!!」
「……本当聞いてないな、こいつ」
ここ、慰めるところじゃないんかい。閉じていた目を開けて、不満を覚えつつそちらを睨む。ゲームオーバーになったらしいゲーム機をぼふっとベッドの端に放り投げて、平腹が「くそー!」って叫んで大きく腕を広げた。ストレスとは無縁そうだけど、ゲームで勝てないイライラとかは、まあ、ストレス…に入るのだろうか。平腹にとっての。けど、平腹がぐるんっと首を捻ってこっちを見て、目を合わせたとき、けろっとしていた。そりゃあもう、けろっと。ゲームでのイライラなんて、まったく忘れ去ったみたいに。
「よくわかんねーけどさあ!べつによくねえ?死ぬもんじゃねーし!」
「……」
「つーか死なねーか!お前!」
「……、…え、ああ…」
なんの話をされたのか、一瞬わかんなかった。でも、遅れて、ああ私の愚痴に対して言ってるのか、と気付く。ゲームの中は、死ぬけど。私は仕事では、死なない。平腹なりの、慰めの言葉なのか。いや、まあ、そりゃあ…死なないけど。「死には…しないけど、さあー……」とまだ納得いかなくてごねるように呟く私に、平腹が「んーー?」とでもいうようにベッドの上で胡坐かいた体ごと傾いて私を覗き込む。そして、パッと両腕を広げた。
「ん!」
「…なに」
「いーから! ん!」
「なに、し、」
がばっとその腕の中につかまえられて、ぽかんとした。そこで初めて、今の平腹の「ん!」を訳すと、「おいで!」になるということに気付いた。ぼーぜんとして、身動き取れずに固まっている私の頭を、次に平腹はわしゃわしゃ犬でも撫でるように雑に撫でる。へこんでいるときに欲しかった、やさしいナデナデとも親身になって相談にのってくれるのとも違う。ああ、平腹だ。これは、ただの平腹。あんまりにも、平腹らしい。ぶんぶん頭を横に振ったら、平腹が撫でていた手をぱっと離した。首を動かすと、ずいぶん近い距離に顔があった。覗き込んでくる。私も、じいっと見る。
「ちゅーもする?」
「…し、」
「……」
「し、ない…」
「あっそ!」
べつに怒ってるわけでもなんでもない、ただ単純に興味を失くしたような「あっそ!」と共に、ぽいっと捨てるように私から体を離すと、放り出していたゲーム機をもう一度手に取った。「次はぜってー倒す!」とひとりで宣言し、ごろんと横になると、画面と顔との距離を近づける。またもや、私はぽかんとした。嵐が去ったようなひどい髪型のまま、しばらく固まった。本当に、嵐みたいなヤツだ、平腹。(ぜんぶ、吹き飛ばしていくんだから)
スクラッチワールド