「おばちゃんったらうっかり買い忘れちゃって……ごめんねぇ~、
ちゃん。おつかい助かるわぁ」
「これくらい気にしないでください。今日は非番だし、散歩がてらですから。他に買うものは無いですか?」
「ええ、渡したメモに書いたものだけで大丈夫よ~」
「わかりました。じゃあ、商店街の方に……」
「あ!そういえば商店街にたくさん貼り紙が出てたわよねぇ、お祭りのお知らせ」
頼まれたおつかいのために館の外へ出ようとしたところ、何の気なしに、本当にただポンと思い出したようにキリカさんが手を叩いてその話題を出した。瞬間、ドキッとして肩が跳ねた。自分のそんな分かりやすさに少し恥ずかしくなりながら、動揺をしまい込んで咳払いする。ええ、そういえばそうですね言われてみればあったかもしれませんねそんな貼り紙あちこちに……、という涼しい顔で。
「そうですね、もうそんな時期ですよね」
「
ちゃんは行くの?」
「え?や、私は……」
「誰か誘ってみたらどーお? ほら、木舌ちゃんとか」
「なっなんで木舌が出てくるんですか!!」
平静を装っていたのに、つい大きな声が出てしまった。さっきよりももっともっと自分の動揺が我ながら恥ずかしくて顔が火照る。でも、だって、急にその名前が出てくるから。
私の様子にキリカさんがふふ、とくすぐるように笑って、内緒話するみたいに耳元でからかう。
「
ちゃん、最近木舌ちゃんととっても仲良しなんだもの~」
「そ、そんなことないです!ぜんっぜん!木舌はただの木舌っていうか!」
「あら、おばちゃんの気のせい?」
「そ……そもそも誘うっていっても……」
もごもご言いながら、肩を縮こませて視線を落とす。「木舌は……誘われたり誘ったりするあてがたくさんあると思うし……」
最近商店街の至るところに貼られていたお祭りのお知らせ、もちろん気付かなかったわけがない。この時期の恒例行事だ。今までだったらそこまで過剰に反応しなかった。「ああそんな時期かあ」としか思わなかった。なのに何故か、先日そのお知らせを見たときに考えてしまった。「木舌は誰かと行くのかしら」って。
それからはもう大変だった。油断しているとすぐに木舌と二人きりでお祭りに行く妄想が頭によぎる。我ながら恥ずかしい、痛い子だ。べつに二人っきりでそんなところに遊びに行くような仲じゃないのに。特務室のみんなを誘ってわいわいがやがや、という想像の方がよっぽど現実味がある。それでも想像の中での木舌は自分だけに微笑みかけていて、自分はやけに嬉しそうに彼の隣に収まっているのだから、本当に都合が良い。恥ずかしい。
「だったらなおさら、誰かに先を越されちゃう前に木舌ちゃんを誘わなくちゃよねぇ」
「え、い、いいんです……」
「あらあら。木舌ちゃんも、きっと
ちゃんにお祭り誘われたら嬉しいと思うわよ?」
「……、……断られるのが怖いっていうより、その……」
「うん。断らないとおもうわ、木舌ちゃん」
「だからなんです……木舌、すごく優しいから……もうなんかたまに不安になるくらい優しいから!多分私が誘ったら、いいよって言っちゃうと思う」
「……それは悪いことなの?」
「だって、木舌は他の子と行きたいかもしれないし!木舌と行きたい子他にもたくさんいるかもしれないし!それなのに早い者勝ちで私が誘っちゃうのは、なんか……」
キリカさんが、きょとんとかぽかんとか、そういう感じの顔で私を見る。でも私は本気だ、本気で……木舌のそういうところが心配で、自分がずるい女の子になるのが怖い。そのずるさが木舌にバレてしまうのも怖い。
視線を泳がせて指先を擦り合わせごにょごにょ言っていると、無言でそれを見ていたキリカさんがふふっと笑い出した。
「そうねぇ、不安になっちゃうのね。でも木舌ちゃんなら、早い者勝ちだからじゃなくって、『
ちゃんと行きたいから』って理由でオッケーしてくれるって、おばちゃんは思うわ」
「……でも……」
「まあ、ほら!お祭りまでまだ遠いし、誘うチャンスはきっとたくさんあるわよ~?おばちゃん、
ちゃんが木舌ちゃんのこと誘えるように協力するから、何かあったら言ってちょうだい」
そう優しく言って、私に向かってぱちりとウィンクをしてみせる。恥ずかしいやら、申し訳ないやら、頼もしいやらで、私はぎこちなくだけど小さく笑い―……、ハッとして顔を上げた。
「べつに木舌とお祭り行きたいなんて言ってないです!!さ、誘おうとか全然思ってないですからね!!」
「あら~」
「もう!とにかく、おつかい行ってきます!!」
「はーい、いってらっしゃーい。頼んだわよ~」
のしのしと大股に歩いて、館の外へ向かう。後ろから、キリカさんが笑う声が聞こえた気がした。
目的のものは早々に買うことができた。道中、「ほんとに違うのに!木舌のこと誘いたいなんて考えてないのに!」ともやもやしながらずんずんと足を動かしていたら早歩きになってしまっていたから、余計だ。思ったよりもさっさと用事が済んでしまった。さっとまたすぐに帰ってもよかったけれど、人で賑わう商店街をぷらぷらと歩いていると、例の貼り紙のついた電柱が目に入って、足が止まった。お祭りの開催日と、主な催し内容と、そして綺麗な花火の写真、浴衣の男女のイラストが添えられている。
「……べつに、行きたいなんて思ってないもの……うん、全然、思ってない、全然」
誰に何を言われたわけでもないのに、ぷいっと突っぱねるように顔を背ける。
背けた先で、目が合った。瞬間、真っ白になる頭。見慣れた相手は、私と目が合うと「ああ、やっぱり」みたいな反応をして笑った。
「やあ、
。奇遇だね」
「…………木舌」
にこにこ、微笑みながら私のすぐ傍までやってくる。ずっと頭を悩ませていた存在が急に距離を詰めてきて、無駄に後ずさりそうになる。けどもちろん、そんな戸惑いに気付いていないのか気にもしていないのか、木舌はにこにこのままだ。私の買い物かごに気付いて、「おつかい?」と尋ねてくる。
「まあ……キリカさんに頼まれて、ちょっと」
「ああ、なるほど」
「そういう木舌はどうしてここに?非番ってわけじゃないわよね」
「うん。そうだね。おれは一応、仕事の一環かな」
見れば木舌は、いつも通りの、特務室としての制服だ。私が神妙な顔をして首を傾げたのを見て、木舌は「ほら、これ」と何かを指差す。促されるままに視線を動かして、どきっとした。さっき私が睨んでいた、商店街のお祭りの貼り紙だ。
「今度、ここらでお祭りがあるだろう?」
「……え、ええ、そうね。貼り紙、いっぱいあるし……気付いてたけど?」
「賑わうのはもちろんいいことだけれど、人も多いと、何かしらの厄介事が無いとは言い切れないからなぁ。羽目を外してしまう人だとか、スリや詐欺やら、それから迷子やら。見回りでも頼もうかって話が商店街の方からあったそうだから、詳しく話を聞きにね。おれだけじゃなくてさっきまで―…」
「えっ!木舌、見回りなの!?お祭り行けないの!?」
思わず食いつくように声をあげてしまう。その私の勢いに、木舌がちょっと驚いたように目をまたたかせた。そんな顔を見てようやくハッとして、私は取り繕ったように咳払いし、前のめりになりかけていた身を引いた。
すると木舌が、ははっ、と声を上げて笑った。恥ずかしいのを誤魔化すようにキッと睨んだら、木舌はごめんごめんと眉を下げた。眉が下がっても、私の様子に笑ったことは事実だ。
「いやあ、それが……おれ、さっきまで谷裂と一緒だったんだ」
「谷裂?」
「そう。二人で詳しい見回りの範囲を聞きに来たんだけど、話を聞いた谷裂が『それくらいなら当日は自分一人で十分だ』って。おれも手伝おうとしたけど、要らないって谷裂に断られてしまってね」
「はあ……それはまあ、谷裂らしいといえば谷裂らしいけど……」
谷裂は、今日のその打ち合わせが先程終わると、特に他に用もないのでさっさと館に帰ってしまったらしい。木舌は、少し寄りたいところがあったので商店街に残っていたと。それで、その用件も済んでそろそろ館に帰ろうかなというタイミングで、私の姿を見つけたらしい。なるほど?と話を聞いている内に、流れで一緒に館へ帰ることになった。隣を並んで歩く。木舌の顔を、ちらりと盗み見た。つまり?つまり……さっきつい取り乱しちゃったけど……じゃあ、木舌はお祭り行けるのよね。谷裂には心苦しいけど、谷裂のおかげで、他の獄卒に見回りの声はかからなそうで……。
「……」
「…………」
「
?」
「っえ!?な、なに?」
誘いたいわけじゃない、そんなわけじゃ……と思っていたはずなのに、頭の中がそればっかりになる。どうやったらうまく誘えるんだろう、とか、なんて切り出せばいいんだろう、とか。悶々と考えていたところに、木舌と目が合って不自然にうろたえてしまった。
目が合っても、木舌はすぐには何も言わず、私の顔をしばらく見つめる。どきどきしながら言葉を待っていると、木舌は少し考えるように「うーん」と口元に手をあててから、改めて私の顔を覗き込んだ。
「
は?誰かと行くのかい?お祭り」
なんの心の準備も無しに木舌の口からそう言葉が発せられて、咄嗟に、反射的に、何か言おうと口を開く。でも声にならない。ほんの一瞬前の自分がなんて言おうとしたのか分からない。頭が真っ白になった。
――「行く予定なんてない」って言ったら?お祭りに興味がないと思われてそこでこの話は終わってしまう?
――「行きたいけど一緒に行く相手がいなくて……」いや、これじゃあなんだか、嫌な誘い方。遠回しで、なんだかみっともない。
――「木舌はどうなの?」そんなふうに聞いて、もし、「おれはどこそこのナントカちゃんに誘われてね」なんて言われたら?
――いや、そうよ、そうよね?「
は?」って聞くの、「おれは行く予定があるけど、そっちは?」っていう聞き方なんじゃないの?やっぱり私が誘おうとなんてしちゃいけなかった、間違い、大間違い!
ぐるぐるとした頭の中がそこまで結論を出した時、それまで言葉と声を失っていた唇が弾かれたように急に喋りだした。
「べつにっ!私が誰と行こうが木舌には関係ないじゃない!」
直後、波のようにざあっと後悔が押し寄せる。はっと思わず自分の口を押さえた。間違えた。確実にこれはない。間違えた。なんでこう、可愛くない酷い台詞が口から出てしまうんだろう。せっかく木舌が気を遣って聞いてくれたのに。本当は、話してくれるだけで嬉しいのに。隣に並んで歩いてくれるのだってすごく嬉しいのに。
きゅ、と唇を噛んで俯く。木舌がどんな表情を浮かべているのか怖くて確かめることができなかった。さすがに怒ったかもしれない。逃げ出したくなる気持ちを必死に抑えていると、隣から、木舌の声がした。
「おれの知らない人?」
俯いたまま、えっ、とまばたきを繰り返す。耳に入ったのは間違いなく木舌の声だ。でも、あまり聞いたことのない声色だった。不機嫌なわけではない。怒ってる感じでもないと思う。木舌が不機嫌だったり怒ってるところは見たことないけど。なんだか、でも、いつものなんでも許してしまうような底抜けの優しさのある声でもない気がした。
「……、……え、」
「友達?
の」
「えっと……」
いや、やっぱり怒ってる?ううん、怒ってはいない、と、思う。でもわからない。わからないのになんだか妙な焦りを感じて、「友達!女友達!」と少し声を大きくした。べつにもし男友達だったからといってどうというわけではないと思うけど、何故かそう言わないといけないような気がして。木舌は私の返事を聞くと、一瞬の間のあと、「そうかぁ」といつも通りののんびりした相槌を打った。いやに心臓がどきどきした。
「楽しんでおいで。人も多いだろうから、くれぐれも気を付けて」
「あ……ありがと? き、木舌は……」
「おれ?」
「……木舌は、いかない、の?」
たのしんでおいで、なんて他人事だし。さっきまで聞こうと思っても聞けなかった「木舌は?」という言葉が、流れですんなりと口にできてしまった。
私に聞かれると、木舌はまた「うーん」と考えるような声を出す。そろりと視線をそちらにやっと移す。さっき私が冷たい、突っ撥ねるようなことを言ったのに、見た感じ木舌は特に怒っていない様子だ。
「そうだなぁ。誘いたい子はいた、かな」
ぐさり、と胸に刺さる。やっぱり。やっぱりいたんじゃない。「へえ、そうなんだ」と平気なふりして相槌を打とうと思ったのに、声にならなくて少し黙る。
「うーん……でも今回は諦めるよ」
「……誘えばいいじゃない」
「いやあ、相手に先約があっちゃ、なかなか難しいなぁ」
「…………そう、なの」
「うん」
「……」
「……」
「…………ん?」
頭に過ぎった、「あれ?」という引っかかりに、眉根が寄る。いや、まさか。そんな、都合の良い。思い上がりかもしれないし。だけどその「まさか」「まさかね」という考えが捨てきれなくて、私は眉間にしわを寄せたまま歩く。なんだか、すごく、もったいないことをしたような気になるのはどうしてだろう。いや勘違い、勘違いに決まってるって思うけど。
「どうかしたのかい、
」
「な、なんでもない……なんでもない、けど……」
「そうかい?」
「……」
「ああ、そうだ。おれの知り合いが、りんご飴の屋台を出すって言っていたよ」
「……そう」
「
は好き?りんご飴」
「う……うん、……好き」
「そうかぁ。他には?どんな屋台が好きなんだい?」
そんな、気を遣っているんだか何なんだか、他愛もない話をしながら館へ二人で帰る。途中何度か上の空になりかけた。どうしよう、結局、誘えていないし、他の人と行くって嘘なんかついてしまったし、今更それを嘘だったなんて言いづらい。自分で自分の首を絞めるって、こういうことだ。
いろんな後悔に苛まれて、そしてとうとう何も言えないまま二人で館に到着する。エントランスの扉を開けて、その音に気付いたのかキリカさんが顔を出しに来てくれて、それで――そこでさらに私は首を絞められてしまった。
キリカさんが、私と、私と一緒に帰ってきた木舌を見て、ぱっと表情を明るくする。木舌はにこにこしている。キリカさんは嬉しそうだ。「微笑ましそう」だ。悪い予感がした。
「あら……あらあら!おかえりなさい。二人で仲良く帰って来たのね~」
「ええ、商店街の方で偶然会って」
「ふふっ、よかったわぁ~。その様子じゃあ、ちゃんと誘えたのね~?木舌ちゃんのこと。お祭りに」
ぴしり、と自分の中の何かにヒビが入る。空気がしぃんとした。
石のように固まる私。木舌は、微笑こそ浮かべているけれど、口を結んだ。キリカさんがニコニコ、にこにことした後、空気の異変に気付いたように、ハッとした。片手で口元を覆った。
「あらやだっ!もしかして、余計なこと言っちゃったかしら……?おばちゃん、てっきり……」
「……、っ……い、いえ……あの……」
「ごめんねぇ~、
ちゃん…!」
「ち……ちが、ちがうんです…っ!キリカさんが謝るようなことじゃなくって……私が……」
言いながら、カアッと火が出そうなくらい顔が熱くなる。恥ずかしい、恥ずかしい恥ずかしい!なんの言い訳もできない。誤魔化せない。恥ずかしい。予定もないのに「友達と行く」なんて嘘だってバレてしまったことも見栄を張ったみたいで恥ずかしいし、「木舌には関係ないじゃない」なんて言ったくせに、こんなの、最低すぎる。キリカさんにだって気を遣わせてしまって。
どうしよう、木舌の方を振り返ることができない。恥ずかしくって消えてしまいたい。そんなふうに思って唇を噛んで俯いていたら、すぐ傍で木舌の声がした。私の肩に優しく手が置かれる。言葉はまず、キリカさんの方へ向けられた。
「いえ、ちょうど今から誘うところだったんですよ」
えっ、と思わず顔を上げる。視界の端で、キリカさんも驚いたのがわかった。でも顔を上げてすぐに目に映ったのは、木舌の笑った顔だった。目を細めて、優しく、心なしか、嬉しそうに。
「もしよかったら、おれと一緒にお祭りに行かないかい?
」
ぱくぱくと口を動かすだけで声にならない。それまでとはまた違った熱で、顔があつくなるのを感じた。だけど目を離すこともできない。視線が絡んだまま、木舌も私からちっとも目を離さない。見つめたまま、微笑む。私の返事をずっと待っている。
結局声が出せないまま、ぎこちなく首を縦に振った。それを見て木舌がもっと笑ったのがわかったから、私はもう一度、もう何度か、こくこくと頷く。
「ああ、よかった。ありがとう、
。当日が楽しみだなぁ」
「……う、……うん」
「キリカさんにもお礼を言わないと。実は話を切り出す機会を伺っていたので……ははは、いやぁ、助かりました」
「あらぁ……そうだったの。じゃ、じゃあおばちゃん、いい手助けになったのかしらね~?」
見てるこっちが照れる、みたいな反応で、キリカさんが笑う。その場から動けずにいる私の手から買い物かごをそーっと取ると、「おつかいありがとうね。助かったわ~、じゃあこれは向こうにしまってきちゃうわね~」と言いながら食堂の方へそそくさと身を引っ込めていった。いや、さりげなく私の肩をぽんぽんと叩いていった。あとは二人でお話してちょうだいね、がんばってね、という合図のような気がして、私はますます何も言えなくなる。でも後でちゃんとお礼しようと思う。
「……」
木舌の顔を見上げる。私に向かってにこにこしている。
「……よかったの?」
「ん?何がだい?」
「だ、だって……いいの?キリカさんの手前、ああ言うしかなかったかもしれないけど、気を遣っただけなら私はべつに……」
言いながら、視線を逸らしてしまう。唇を尖らせてしまう。ああもう、また、どうしてこんなに可愛げのないことしか言えないんだろう。そんな自分が嫌になる。嫌になるのに。木舌は私に向かって笑ってばっかりだから、いつもいつも、こんなに可愛くない私のままで、甘やかされてる。
「おれは、
と行きたいから」
木舌が少し首を傾げるようにして、私の瞳の奥を覗いた。「
は?」
「……私も、木舌と一緒に行きたい。ふたりで、行きたい」
「っていうことがあったなあ。なつかしいね」
「い、いつの話してるのよ!!やめてよ!あの時のこと、本当、思い出すだけで恥ずかしいんだから…!」
「そうかい?良い思い出だと思うけどなぁ、おれは」
「よくない!」
「ははは、うーん……でもそうだなぁ。たしかに、あの時はおれからはっきり話を切り出せなかったから、
に余計な悲しい思いをさせてしまっただろうし……そこは悪かったと思って、」
「え!?なっ、なんでよ!?木舌が悪いこと一つもないじゃない!?」
「いやいや、おれが最初から『誰かと行くのかい』じゃなく、『おれと一緒に行こうよ』って言っていれば、
が勘違いして嘘をつかなくてもよかっただろう?」
「……え!?そんなの、私が勝手に悪い方向に思い込んだだけで……」
「はは、
は優しいなあ」
「なっ……なぁ~~っ!?」
この流れでどうしてこっちが「やさしい」になるのか、意味がわからなくて納得のいかない変な鳴き声が出る。本当に、わからない。明らかに優しいのは木舌の方っていうか、いやもう、「優しい」を越えすぎてて、不安になる。たぶん木舌以外そんなふうに考えるひといないと思う。木舌の「優しい」が、底を知らな過ぎてたまに怖い。
納得のいってない、じとーっと疑うような目で木舌を見つめる。そんな視線もへっちゃらそうに、木舌はいつものように、ははっと声をあげて笑った。そして繋いでいる手に、少しだけ力が入る。
「あの時は、おれも少し不安だったよ。駆け引きっていうのかな、上手いやり方に迷って」
「え……そうだったの?そ、それはちょっと意外ね……木舌、なんでもさらっと誘ったり、口にできたりする人だと思ってたから」
「そう見えてた?」
「見えてた。今も見えてる」
「はは、うん、今はそうだなぁ……不安じゃないからね。
のこと、堂々と誘えるようになって嬉しいのさ」
「ど、堂々って……」
「おれは
が好きで、
もおれのことを好きで、恋人同士だから。こうやって当たり前にお祭りに一緒に来ることができて、手を繋いで歩くこともできる」
目を細めて、本当に愛おしいものを見るように微笑むから、そうやって見つめられると胸がそわそわしてしまう。恥ずかしくなって視線を逸らすけど、その分、私も繋いだ手に力をこめた。
お祭りで賑わう人混みの中。あちこちから聞こえる楽しそうな声、美味しそうな匂い、賑やかな笛の音。そう、そうだった。今日のお祭りを誘ってくれた時、当たり前に「一緒に行こう」と言ってくれた。はぐれそうだからじゃなくって、ただ当たり前に自然に、この手を繋いでくれた。あの時には出来なかったことができる。あの時とは違うところがたくさんある。あの時には言えなくって、でもあの時と変わってない、「あなたのことが好き」って気持ちがある。
きっとずっと、これからも、二人とも。