「ん……木舌…?」
「…ああ、ごめんよ。起こしてしまったね」
重い瞼をもちあげて、目を擦る。私は布団から出ないままなのに、視線の先で木舌がもうきっちりと目覚めて、部屋を出る準備をしていた。ぼうっとその身支度をしばらく眺めて、あれ、とこの状況に引っかかりを感じる。
「木舌……今日、休みじゃ……」
「はは、いやあ…そのはずだったんだけど、昨日急に予定が変わって。平腹の代わりにおれが出ることになったんだ」
「え……」
「朝二人でゆっくりできなくて残念だけど……
はもう少し寝てていいよ。今日は非番だろう?」
「……な、っ…なんで昨日の時点で言わなかったの!? 言ってくれたら私……」
思わず布団を剥いで、体を起こす。けどすぐにハッとして布団を引っ張って自分の体を隠した。かあーっと恥ずかしくなりながらも、木舌を見る。「こういうこと」は、なるべく、二人の休みが一緒の日の、前の日の夜とか、そういう…翌朝ゆっくりできるとき、を選んでするのが暗黙の了解みたいになっていたのに。
私があたふたしているのを、木舌がきょと、とした顔で見る。やがていつもみたいにのんびりした笑顔を浮かべて、ベッドに近付く。端に腰かけると、ぎし、と小さく音が鳴った。
「『言ってくれたら』……部屋には来なかった?」
「……だ、だって…」
「ごめん。ただのおれのわがままさ。言ったら来てくれないだろうなあってわかってたから、わざと言わなかった」
「…木舌……」
秘密にしてでも、翌朝はやくっても、私と過ごす時間を大事にしたかったから。そう言われてしまうと、これ以上何を言っていいのかわからなくなる。むぅ、と口を尖らせて黙る私に、木舌が笑って手を伸ばしてきた。大きな手のひらが頭を撫でる。ずるい。許してしまう。私のわがままをいつもなんでも許してしまうのは、木舌の方なのに。
「だからって、内緒にするのはずるいでしょ。私が起きなかったら、勝手にそーっと出ていくつもりだったってこと?」
「ははあ、たしかに。そう言われると……薄情だね」
「もう……」
「ごめんごめん」
「……つ、」
「うん?」
「つかれてない、の?昨日の、夜…の……」
「ああ、うん、おれは全然。
は?」
「わ、私も平気だけど!」
本当に?よかった、って木舌が笑う。いや、もし体が重かったとしても、私は今日一日ゆっくりできるんだし。木舌とは違う。木舌こそ、本当に?本当に平気? 疑いの目でじーっと睨んでいたら、木舌が私のおでこに小さくキスを落とした。それが「そろそろ行かなきゃ」の合図だということがなんとなくわかってしまう。
「ごめんよ。なるべく早く帰って来られるようにするから」
「……そんなに謝らなくていいってば。べつに、謝るようなこと何もしてないし……休みでも、出かけようとか予定立ててたわけでもないし……」
「うーん……けど、本当だったら昼まで一緒にベッドにいたかったからなあ」
目覚ましが無かったとしても、二人ともそんな時間まで起きないってことはないと思う。だから、朝起きてもお昼まで布団から出たくなかった、っていうのは……二人で、布団の中で、くっついていたかった、ってことで。直接的なことは何も言葉にしていないのに、昨日の夜してたことを思い返して、また顔が火照った。(場合によっては、朝、「もう一回」してたかもしれない、とか)
「ば、ばかなこと言ってないで早く行きなさいったら!気を抜いてへまをしたら怒るわよ!」
「はは、それもそうだね。気を付けるよ」
「……いってらっしゃい」
「うん、いってきます」
「……い、いってらっしゃい、」
「うん?今言って…」
「……の、キス…」
離れていこうとしていた木舌が、振り返って、ちょっと驚いた顔を見せる。自分が口走った恥ずかしい台詞に、もう今度こそ顔から火が出そうだった。言い出したくせに、もじもじと俯く。してあげてもいいよ、とか、そう言葉を続けていたらもう少し強気でいられたのに。口にできたのは、キスしてあげる、じゃなくて、キスを、
「したい……」って小さな声だけ。
木舌が困ったように笑う。私に顔を近づけながら、「ああ…やっぱり休み、代わらなければよかったなあ…」なんて珍しいことを言った。ばかね、まったくもう。
//あさひがいじわる