「あら、木舌ちゃん、いいところに。
ちゃんが大変なのよ~」
「
が?」
食堂に顔を出したところをキリカさんに呼び止められて、おいでおいでと台所の裏口のほうへ促される。のんびりとしたいつもの調子なのでそこまで緊迫した話ではないことは分かりつつも、「
」という名前を出されてしまったからにはもちろん気になる。なんだろう、と素直について歩いて裏口へやってくると、そこで
と平腹と田噛、三人が何やらわいわい言い合っていた。おれとキリカさんに気付いて、三人がこっちを向く。
「どうしたんだい、三人とも」
「木舌、今猫が…」
「猫?」
「見ろよ木舌ー!こいつ!ちっせーネコ!」
「ちょっと!平腹は触らないで!うっかり潰しちゃいそうだもの!触り方が雑なのよ!」
「…って言ってるお前もなつかれてはねーけどな」
「う、うるさい!でもこの子が…痛っ!」
なるほど。三人が囲む中心で、小さな猫が一匹、周囲を警戒するように毛を逆立てていた。そっと指を出した
にさえ、爪を立てる。
「迷い込んじゃったみたい。
ちゃんが一生懸命お世話しようとしても、全然警戒を解いてくれないのよねぇ」
「ああ、なるほどなあ」
キリカさんの悩ましげな物言いに、しみじみ納得して頷く。田噛は興味なさげにちょっと引いて眺め、平腹はちょっかいを出したそうだけど
に阻まれて、
はというと…噛まれたのか引っかかれたのか、手を負傷しながらも猫ににじり寄っている。猫、好きだもんなあ、
。
「ご飯だって用意したのに、全然食べてくれないのよ……痩せてちっちゃいし、お腹減ってると思うんだけど…」
「そっか。じゃあ、おれも挑戦してみようかな」
「えっ?」
の隣までやってきて、猫に手を伸ばす。すかさず爪を出しておれの手を引っ掻いてくる猫に、
が、自分がやられたみたいに「あっ!」って声を出した。けど、おれは特に騒がずに、にっこり猫に笑ってみせる。おれの顔を見上げていた猫が、懲りずにシャアッと怒るけど、やっぱりおれはにっこり笑顔を崩さない。
「まあまあ、そんなに怒らないで」
「き、木舌…手、大丈夫なの?」
「うん?平気さ」
抱き上げると、しばらく暴れていたけど。どれだけ暴れてもおれが気にしないのを猫も悟ったのか、だんだんとその元気がなくなり、少し経つと大人しくなった。「よしよし、いいこだね」と頭を撫でると、警戒するような声で呻きつつも、噛んだり引っ掻いたりはしなくなる。
「あら~、木舌ちゃんてば扱い上手ねえ」
「すげーな木舌!こいつずっとシャアッてしてたのにな~」
「ふふ。ツンツンしてたのに、木舌ちゃんに撫でられるのは嬉しいみたいだわ~」
「……なんか既視感あるな」
小さい猫の頭にはちぐはぐな光景だけど、おれの大きめの手で、毛を撫でつけるようによしよし体を撫でられて、猫はだんだんと機嫌をよくしたのか、さっきまでの警戒が滲む声とは明らかに違う声で鳴きはじめた。なつかれると、もちろん悪い気はしない。頭を撫でて、喉元を撫でて。気持ち良さそうに猫が目を細めた。「かわいいね。
も…」触ってみるかい、今は機嫌が良いみたいだし、と提案しようと隣を見たら、じいっと、
はおれの腕の中の猫を見ていた。その目は、かわいいかわいいって猫を見てきらきらしてるわけでもなく、どちらかというと、なんだか…
「……触ってもらえて、ずるい」
そう、羨ましがるような、拗ねた顔。
「……」
「…」
「……、…ち、」
「
…」
「違うわよ!!今のは猫に言ったんじゃなくて!木舌が!猫になつかれてずるいって言ったの!!私も触りたいのになんで木舌にばっかりなつくのよ!?」
「
」
「なんでにやにやするのよ!!やめてその顔!!…っていうか猫も猫よ!なんであれだけ他人に警戒しておきながら木舌には気を許してるの!?おかしいじゃない!!プライドってものがないの!?猫!!」
「あー……既視感…あー、なるほどな。似てるか」
「そうねぇ、似てるわよねぇ」
「…
」
「腕を広げなくていい!!おいでおいでしないで!!頼んでないわよ!!」
「あー!!このネコ
に似」
「
似てないったら!!」
しっぽのきもち