「あの…私、恥ずかしいのでそろそろこの格好着替えてきます」
「おや。せっかくの可愛い格好を。まだ木舌に見せていないのに?」
「もったいないわよ~、まだ木舌ちゃんに見せてないのに」
「……、……」
「木舌に見せたら、それはそれは喜ぶと思うのだけれど」
「ええ、そうですよねぇ。絶対見たがると思うわよ~、木舌ちゃん」
「そうそう。のあまりの可愛さに離してくれなくなってしまうかも」
「きっとイチコロよ、おばちゃんが保証しちゃう!」
「…………」
「あ…木舌さん、もうすぐ帰ってくるんじゃ……」
「……、……も…もう少しだけ着ておきます。ちょっと席を外しますね」

「エントランスに向かったようだね」
「木舌ちゃんに見せにいきましたね」



 勢いでエントランスまで来ちゃったけど、…どうすればいいのか分からない!「見せないともったいない」と言われても、この格好で出て行って「どう?似合う?」なんて、言えないし言ってる自分を想像するだけで恥ずかしい。舌を噛み切って消えたい。やっぱりやめよう、着替えてしまおう、とエントランスに背を向けたら、背後から扉が開く音がした。ドキッとして慌てて柱の陰に体を隠す。思った通り、扉の向こうからやってきたのは木舌だ。私がじりじりと首だけ出して物陰から見ているのに気付いて、おや、と少し驚いた顔をする。

、ただいま。おれの勘違いかもしれないけど、出迎えに来てくれたのかい」
「か…勘違いよ!私はたまたまここを通りがかって、たまたま木舌が帰ってきただけ!」
「はは、それじゃあ今日のおれはツイてるみたいだね。嬉しい偶然が重なるなんて」
「~~っ!ほ、ほんとに木舌、そういう……まあいいけど…、…おかえりなさい」

 機嫌良さそうな笑顔のまま、木舌が一歩こちらに近付いてくる。思わずさっと身を隠した。相手のちょっと戸惑った気配に、うぐ、と気まずい思いでやっぱりじりじりと頭だけ出す。不思議そうに、木舌が言う。

「どうやら首から下は、おれに見られたくないみたいだけど……」
「…い…いろいろと事情があるのよ!見ちゃダメなの!」
「そうなのかい? 随分、可愛い格好をしていると思ったんだけどな」
「えっ!?なんで…」
「耳が見えてるからね」

 はっ!?と首を上げる。当たり前だけど、自分の頭上についているものは見えない。だけどたしかに、「耳」がついているんだった。私は慌てて頭上に手を伸ばす。もふもふした「耳」に触れて、「しまった!」とショックを受ける。首から下を隠したところで、この付け耳は隠れてなかったんだ。本当に、我ながら間抜けなことをしてしまった。自分の失敗にカーッと恥ずかしくなった上に、気付けば木舌がすぐ目の前にやってきていた。いつのまに!私の格好をまじまじと見下ろしているものだから、恥ずかしさが頂点に達した。

「これはなんの格好だろうなあ……猫又?」
「オオカミよ!ばか!」
「ははは、ごめん。可愛いよ、とっても」
「なっ、……~っ!ばか…」

 笑って、私の頭に木舌の大きな手のひらがのっかった。そのまま、頭を撫でるかと思いきや、興味深そうに頭上の付け耳をさわさわ撫でている。直接自分の身体が触られているわけではないのに、その感触を確かめるような手つきが、妙にむずむずした。だから誤魔化すように、目を逸らしたまま、とりあえず話を振り続ける。

「ハロウィーンってお祭りがあるらしくて…木舌、知ってる?それで…災藤さんが衣装を用意してくれて……」
「ああ、聞いたことがあるね。確か―…仮装した子供たちがお菓子を貰いに家々を訪ねて回るんだったかな」
「……そうなの?」
「おや。違ったかい?」
「私、子供ってことじゃない!そんなつもりなかったわよ、私べつにお菓子なんか…っ」
「うーん…今は持ってないけど…確か、おれの部屋にならあったかなぁ」

 顎に手をあてて考え込むしぐさをする木舌に、目をぱちくりさせる。最初は、ちょっとわからなくて。でも、じわじわと滲む様にその言葉の意味が、絡んだ視線から伝わってきた。また伸びてきた手は、今度は私の髪を優しく撫でる。

「よかったら、今夜はおれの部屋に来てくれるかい」
「……、…いく…」

 私の消え入りそうな声での返事に、木舌が「よかった」って笑うけど。断られることなんて最初から考えてないくせに、そんなふうに笑うんだから、ずるい。